米国では現在、93基の原子炉が電力ポートフォリオの約20%を供給している。ただし、原子力は米国の無炭素電力の約半分を占めており、これらの原子炉は少なくとも2050年までは安全に運転できる。インフレ抑制法により、原子力を含むクリーンエネルギーを対象とする生産税控除が設けられ、この控除は2024年から2032年まで続く。その結果、コストは下がるだろう。
Holtec International(ホルテック・インターナショナル)のリック・スプリングマン上級副社長は、小型原子炉は「初の試みとなるプロジェクト」であり建設費用は高くつくが、自動化とスケールメリットがコストを押し下げると指摘。「最初のプロジェクトが始まれば、後続のプロジェクトが次々と生まれる」「参照プロジェクトがあるので資金調達も容易になる」と語った。
地政学的に賢い選択か
国際原子力機関(IAEA)は、世界の気候目標を達成するには2050年までに原子力の利用を倍増させる必要があるとしている。このため、欧州は少なくとも10基の小型モジュール炉を計画中だ。石炭に依存するポーランドが最も関心を示しているほか、スウェーデンも国営電力会社のVattenfall(バッテンフォール)が、増大する国内のエネルギー需要を満たすため化石燃料を使わないエネルギー源に転換しなければならないと主張。フランス政府は小型モジュール炉の技術に10億ドル(約1340億円)を投資し、フランス電力公社が2030年までに建設を予定している。
小型モジュール炉は、既存のインフラがある先進国と、電力アクセスが限られている発展途上国のどちらにより適しているのだろうか。コンサルティング会社Resolute Strategies(レゾリュート・ストラテジーズ)のマネージングディレクターでニュージャージー州公益事業委員会の元会長のリチャード・ムロズは、小型原子炉ならこれまで設置できなかった立地にも設置できるとして「米国には大きな機会がある」と語った。
たとえば、廃止される石炭火力発電所の跡地は、インフラや送電網がすでに整備されている。産業部門にも適用でき、化学メーカーのDow(ダウ)は、天然ガスに代わる自社工場のエネルギー源として小型原子炉を建設する予定だ。
世界的には、ベースロード電力が不足している国が候補となる。「地政学的な観点から、米国政府は発展途上国の電力生産のためにこの技術を輸出することを検討すべきだ」とムロズは訴えた。
NRC元委員のメリフィールドも、米国が関与しなければ中国やロシアが関与するだろうと指摘。「小型モジュール炉を1基配備すれば、運転開始どころかプラント発注を検討し始めた段階から廃炉に至るまで、100年におよぶ関係を築くことになる。だからこそ、我が国にとって重要だ」と述べた。
気候変動の課題に対応するには、より多くの再生可能エネルギーが必要だが、小型モジュール炉も不可欠だ。少しずつ導入が進み、いずれ国内外のどこにでもある存在となるだろう。
(forbes.com 原文)