佐藤 一関市の北側、胆沢郡の金ケ崎町にはトヨタやシオノギファーマの工場、半導体の製造装置を作る会社などがあります。南側の宮城県の大崎市や大衡村にもトヨタや電子部品工場があります。つまり一関市は南北の大きな事業所群のサプライチェーンに挟まれているんです。
多くの自治体同様、一関市が抱えている問題のひとつに人口減少があります。その対策として企業誘致や雇用創出が考えられるわけです。昭和の時代ならば工業団地を造って企業を誘致して、そこで働いてください、というかたちがあった。でもいまは難しいですよね。ほとんどの製造業はアジア進出をしていて“昭和モデル”は成り立たなくなってきていますから。
クレイ 特に20歳前後の若者の転出が顕著のようですね。
佐藤 そうなんです。一関の高校生は卒業すると7割が進学します。進学先のほとんどは仙台圏か東京圏です。就職する子は3割ですが、約半数が市外です。そのこと自体、悪いとは思っていません。いろんな場所で勉強して仕事に就くことは大きな経験になるし、広い視野を持つことは大切だからです。ただ、その先が大事だと考えました。
クレイ 市長は昨年5月から市内の9つの高校を廻って講話をしています。これは“その先”について、学生さんと話をする場にしているのでしょうか。
佐藤善仁 1957年生まれ。84年、旧一関市職員採用。2005年9月の市町村合併後、収納課長、企画振興部次長兼企画調整課長、企画振興部長、市長公室長、総務部長などを経て17年4月から副市長を務める。2021年10月、一関市長就任。
佐藤 それはですね、一関市の魅力を知ってもらうために行った「高校生への市長講話」ですね。東京と一関の生活を徹底的に比較したものを用意して高校生に話をしたんです。
様々な統計データを基に、初任給はどれくらい違って、食費や被服費、生活費はどれくらいかかるのか。それから男性は30歳、女性は29歳で結婚して、平均的な住宅取得年齢の39歳で家を買って一戸建てやマンションのローンを返済していきながら、一生涯ではどれくらいのお金が残るか、そういった検証をしました。
最終的に大きなひらきはないにせよ、東京と一関で経済的に差が出ることは誰にでもある程度分かる。じゃあ決定的に違うものは何だろう、と。結婚や子育てを考えていても、東京の暮らしではどうしたら仕事と両立できるかで悩んでしまう人がいるかもしれない。一関ならば、その環境は東京よりも整っているんじゃないか。だから進学や就職で出て行ったとしても、思いっきり経験値を高めていつかは帰ってきてね、そういうことを話しました。
私は学生さんだけでなくて、親御さんや進路指導の現場の意識も変えていきたいんです。大きくて有名な会社以外にも、良い仕事はあるのではないか、と。
クレイ TGC teenを開催することで、住みやすさ、オフィス環境の良さを備えた一関に目を向けてもらう、そういう期待がありますか?
佐藤 あります。年間100億円を売り上げる会社を1社呼ぶのも大切だけど、1億円売り上げる会社を100社作りたい、私はそう考えているんです。
製造業でも非製造業でもいい、仕事の種類を広げる。職種が多ければ一関を出て行った子たちが、戻って来て働ける場がどこかにある、そういう環境が生まれる。
人が多い都会で働くことが精神的に辛くなったり、親の介護をしながら働かなければならなくなったり、あるいは子供が不登校で悩んでいる親御さんもいる。それぞれの家庭、人の事情に合わせた働き方が望まれている。だから1社ではなくて100社の会社を作りたい、そう考えています。