食&酒

2023.02.15

ガチ中華「味坊集団」のオーナーは、日本の外食をどう変えたのか

1月18日、第19回の外食アワード2022の表彰式が行われた。他の受賞者と記念撮影する梁宝璋さん(右から2番目)

3つ目の「中国各地の地方料理を紹介」は、梁さんが2016年に湯島に「味坊鉄鍋荘」という中国東北料理の代名詞である鉄鍋燉(ティエグオドゥン)の専門店をオープンしたことから始まっている。

鉄鍋燉は、骨付きの鶏肉や豚肉、羊肉などをインゲンやジャガイモ、キノコ、トウモロコシなどと一緒に大きな鉄鍋で煮込んだもの。もともと中国東北地方の農村では土間の厨房にある釜戸に薪をくべて調理していたのだが、現代ではレストランのテーブルに鉄鍋を埋め込んで、客の目の前で調理するのが一般的だ。
鉄鍋燉は大鍋料理なので、4人くらいでないと食べきれないボリューム

鉄鍋燉は大鍋料理なので、4人くらいでないと食べきれないボリューム


それ以降、味坊集団の快進撃は続いた。

2016年の年末、御徒町にオープンした上品なラム肉料理の店「羊香味坊」は、従来の中華料理店の客層とは異なり、若く、おしゃれな雰囲気の人たちが多い。一方、その翌年に同店の近くにオープンさせた「老酒舗」は、北京の大衆酒場を再現した店で、つまみ用の「ガチ中華」の小皿が豊富で、酒飲みに愛好されている。

2018年6月に三軒茶屋にオープンした「香辣里」は、当時グルメ誌などで注目されていたハーブや発酵食品、燻製を駆使した湖南料理の店である。

実はこの頃から「ガチ中華」が都内各地に続々とオープンしていった。味坊集団もそうした「ガチ中華」の動きに連動していたといっていい。

地道に本場の味を提供してきた

その勢いはコロナ禍でも変わらなかった。いやむしろ梁さんの取り組みは新しいステージへと移り始めていた。

まず、2020年1月、足立区の六町に食材加工と各店舗に供給する料理をつくるセントラルキッチンとなる味坊工房を設立。ここでは羊を1頭丸焼きにする専用釜を設置し、同工房に付属する宴会スペースとしてオープンした「吉味東京」で羊の丸焼きの提供を始めている。
これが味坊特製の羊の丸焼き釜。20人以上の事前予約で提供している

これが味坊特製の羊の丸焼き釜。20人以上の事前予約で提供している


また2021年9月に代々木八幡にオープンした「宝味八萬」は、広東出身の点心師を起用した広東料理と点心の専門店だ。

2018年頃から梁さんは郊外で自家農園も始めている。中国野菜の葉ニンニクやパクチーに加え、小松菜、菜の花、空豆、ダイコンなどを無農薬で栽培し、店で提供するようになった。その集積地が味坊工房だった。彼の店の野菜料理が滋味にあふれ、新鮮で味が濃いのはそのためだ。

そして、昨年はオープンラッシュの年となった。4月には学芸大学に中国の裏路地にある「小吃」の世界を再現した13席の小さな店「好香味坊」を。6月には秋葉原にこれまで各店で提供してきた中国各地の地方料理を集めた「ガチ中華」のテーマパークといえる「香福味坊」、9月には代々木上原に中国の蒸し料理の店「蒸籠味坊」をオープンさせたのである。

まさに「外食アワード2022」受賞にふさわしい1年だったといえるだろう。

味坊集団のここ数年の取り組みを取材してきた前出の宮木記者は「2000年代初めから地道に本場の味を提供してきた梁さんの世界に、ようやく時代が追いついたのだと思う」と話す。

コロナ禍によって中国に出かけることが難しくなり、日本で「ガチ中華」の世界に分け入ることになった筆者にとっても、梁さんの飽くなき挑戦を続ける姿には、いつも目を見張らされるものがあった。

いまはすっかり世間から評価を得た羊料理をメインにした「ガチ中華」の業態を拡大し、チェーン化することを選ばず、その都度それぞれ異なるコンセプトの店をオープンしていく潔いやり方が、梁宝璋さんの真骨頂だ。彼は「ガチ中華」の先駆けであるのみならず、常に最前線を自ら切り拓いていく開拓者とも言えるだろう。

文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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