食&酒

2023.02.15

ガチ中華「味坊集団」のオーナーは、日本の外食をどう変えたのか

1月18日、第19回の外食アワード2022の表彰式が行われた。他の受賞者と記念撮影する梁宝璋さん(右から2番目)

偶然に選んだ立地ではあったが、「神田は丸の内に近く、中国に進出していた大手企業の本社や官公庁があったことから、中国駐在帰りのサラリーマンや新聞記者などが訪れるようになった」と梁さんは言う。当時は中国がWTO(世界貿易機関)に加盟し、世界の工場、また市場として大いに注目され始めている時代だった。

当初は「ちょっと本場っぽい町中華を出していたにすぎなかった」と笑う梁さんだが、中国通の人たちや珍しいグルメに目のない常連たちに促されて、中国北方でよく食べられているさまざまなバリエーションの羊料理を出すようになった。

羊肉の串焼き(羊肉串/ヤンロウチュアン)やしゃぶしゃぶ(涮羊肉/シュアンヤンロウ)、クミン炒め(孜然羊肉/ズーランヤンロウ)、羊のホルモン入りスープ(羊雑湯/ヤンザータン)、羊肉入り餃子などで、当時は珍しい料理ばかりだった。
味坊といえば羊の串焼き(羊肉串)。クミンが利いている

味坊といえば羊の串焼き(羊肉串)。クミンが利いている

体が温まる羊のホルモン入りスープ(羊雑湯)

体が温まる羊のホルモン入りスープ(羊雑湯)


その後、神田味坊では羊料理以外の本場の東北料理のメニューを増やしていく。青トウガラシとパクチーのサラダ(老虎菜/ラオフーツァイ)や東北名物の発酵した白菜を使った豚肉鍋(酸菜白肉鍋/スアンツァイバイロウグォ)、中華風豚肉の天ぷら(鍋包肉/ゴウバオロウ)などである。結果的に、それが「ガチ中華」の先駆けとなったのだった。
青トウガラシとパクチーのサラダ(老虎菜)はガツンとくる辛さが新鮮

青トウガラシとパクチーのサラダ(老虎菜)はガツンとくる辛さが新鮮

続々出店、快進撃を続けた「味坊集団」

2つ目の受賞理由である「自然派ワインと中華のペアリング」は、日本の自然派ワインの第一人者である故勝山晋作さんとの出会いから生まれている。自然派ワインとは、無農薬や有機栽培で育てられたブドウを使い、醸造から瓶詰まで酸化防止剤の使用を少なめに抑えたものだが、勝山さんの勧めで、梁さんは店にワインを置くようになったという。
味坊の売りは、「ガチ中華」に合う自然派ワインが手ごろな値段で飲めること

味坊の売りは、「ガチ中華」に合う自然派ワインが手ごろな値段で飲めること


勝山さんが神田味坊に最初に訪れたのは、2011年、東日本大震災のすぐ後のことだった。羊肉を使った美味しい中華を出す店が神田にあるとの噂を聞いて訪ねたところ、朴訥な人柄の梁さんと知り合い、一時は週に何度も通うほどの常連になった。

それまで日本では羊料理といえばジンギスカンくらいしか知られていなかったが、もともとヨーロッパや中東、中央アジア、インド、南米など世界中の国々で羊は普通に食べられていた。中国でも内モンゴルや西域シルクロードが広がる北方では羊食は一般的だった。「ラム肉にワインは合う」ことを熟知していた勝山さんは、羊肉を串に刺して気軽に食べられるラム肉中華に魅せられたのだという。

実を言えば、2人の出会いから生まれたワインとラム肉というペアリングが神田味坊をこれほどの人気店にしたと言っても過言ではないだろう。
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文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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