アフガン避難民と企業マッチング始動 本気のハラルフード、企業対応の極意

焚き火を囲むアフガン避難民と企業の参加者ら=岐阜県羽島市の三星グループ敷地内で

女性のAさんは元々、JICAのプログラムで名古屋大学大学院に3年間留学した経験がある。夫と小さな娘とともに名古屋大学を頼って再来日した。 名古屋生活の思い出として「アフガニスタンでは夜、女性だけで歩くと身の危険を感じます。なので留学して2、3週間は、授業後暗くなってからひとりで帰るのは怖かったですが、何も起こらず、安心して帰ることができた」と語った。また「日本の人たちの礼儀正しい振る舞いが好き。自然が綺麗なところも気に入ってます」と話した。 小さな娘と夫とともに来日したAさん

小さな娘と夫とともに来日したAさん


今後の生活については「私自身は子育てをしているので日本ではパートタイムなどで働くのが現実的でしょう。まずは夫がフルタイムの仕事を得て、安心して生活できるように長期ビザを得たいと思います。タリバン政権の間は、女性のあらゆる権利が奪われているので娘の未来のため、新しいキャリアを築いていきたい」と語った。

企業のおもてなしとマッチングの狙い

三星グループの社員が手作りしたアフガン煮込み料理とサラダ パンはハラルフード対応のものを準備した

三星グループの社員が手作りしたアフガン煮込み料理とサラダ パンはハラルフード対応のものを準備した


約2カ月の企画準備期間で、企業側が特に注力したのが、ハラルフード対応だ。普段の「TAKIBI & Co.」では、経営者らが焚き火を囲みながらお酒も交えてBBQをして交流できるのが売りのイベントだが、イスラム教では酒類やイスラム法上適切に処理されていない肉はNG。三星毛糸の社員が、アフガン避難民をおもてなしできるようにアフガン料理のレシピを調べて、ハラル対応の食材を調達した。初めてのムスリム対応だったため、事前にアフガンの参加者に不明点は確認した。

例えば、BBQ道具はしっかりと洗えば普段使用しているものでOKだった。スパイスなどはハラル認証のあるものを調達した。また試作をしてみて味にもこだわった。

当日、社員が準備したのは、アフガニスタン煮込み料理のショルワやサラダ。ショルワは、トマトをベースにした熱々のスープに人参やジャガイモ、ラム肉がゴロゴロと入っていて、スパイスがよく効いていた。このほか、岐阜モスクの近くにあるパン屋からハラル対応のパンを提供した。避難民の参加者からは「アフガニスタンで食べるよりおいしい」という声も挙がったほどだ。  避難民の参加者からも好評だった、熱々のショルワ スパイスが効いていて寒い冬にぴったりだ

避難民の参加者からも好評だった、熱々のショルワ スパイスが効いていて寒い冬にぴったりだ


なぜここまでおもてなしを徹底して、難民人材と企業の出会いの場づくりを手がけたのだろうか。三星グループ代表の岩田に聞くと、意外な答えが返ってきた。

「何気ない後押しがアクションに繋がっていくと思うんです」

元々、WELgee代表の渡部を通じて難民問題については知っていたが、岩田自身が経営者として直接関わりのある問題とは認識していなかった。たまたま渡部のFacebookの投稿で、名古屋大学にもアフガン避難民の人たちがいると知ったことで「身近にいるんだ!というローカル性が後押しになった。ここに逃げてきたなら、できることをしなくては」という思いで突き動かされたという。

発案から企画の始動まで、準備期間はたったの2カ月程度。民間ならではのスピード感で実現した。「これからは、事業の真ん中に『社会性』をもつことが当たり前になっていく」と、岩田は語る。

「せっかく縁あって名古屋にいる優秀な難民人材と繋がり、学び合うフラットな関係性が築けたら嬉しい。今回の企業参加者は、問題をちゃんと知ろうとした経営者やリーダー層たち。これを機に難民人材についての関心は民間だけでなく、地方行政にも波及しています。難民人材の就労という形に繋がれば最高ですね」

「ローカル企業も事業の真ん中に社会性をもつのが当たり前になっていく」と話す三星グループ代表の岩田「ローカル企業も事業の真ん中に社会性をもつのが当たり前になっていく」と話す三星グループ代表の岩田

取材後記

生きるか死ぬか、分からない──文字通り、サバイバルを切り抜けてきた人たちが日本で暮らしている。アフガン避難民の参加者たちは皆、穏やかな口調で自分の夢を語った。国の再建を切に願う、公共性の高い夢が多いのが印象的だった。

名古屋大学を頼って来日したアフガン避難民の人たちが、家族も含めた生活支援を受けられるのは1年間。その後は就労ビザなどを取得し、自立した生活再建が求められている。話を聞いた避難民の2家族のビザの期限は、今年5、6月まで。期限内に更新または変更の申請をする必要があり、何らかの仕事に繋げることは待ったなしの状態だ。

彼らが日本で働くには日本語習得のハードルが待ち構えるが、避難民を含め、国際人材を活かす企業側の受け入れ態勢の整備も求められている。そのためにはまず歩み寄り、お互いを知ることから。そこから難民人材の新しい道が切り開かれていく。日本でもその芽が出始めている。(督あかり)



文・写真=督あかり

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