内向的な方法を編み出せばいいんだ
ここからチャンの内向型人間としての本当の歩みが始まる。まず、外向的なふりをするのは疲弊するだけで持続可能でないと自覚し、人がうらやむような仕事を辞めてしまう。そして、内向的性格について書かれた本を読みあさった。ただ、本の多くは心理学者やコンサルタント、企業のマネジャーによるもので、いくら読んでも依然として会議で発言したりができない。そこで自分に合った方法を編み出そうと考えた。それが自分を生かす働きをもつ戦略のようなものになったのだ。「内向的な自分なりの内向的な方法で、物事を試してみようと思ったのです。そこからすべてが始まりました」とチャンは語る。
著書を読んでまず伝わってくるのは、内向的な人々の苦労だ。チャンの場合は、オフィスで電話を取るのが怖い、エレベーターではほかの人が乗り込んできては困ると、即座に「閉じる」のボタンを押す。それ以外にも、職場でいきなり始まるブレーンストーミングが苦手だ。内向的な自分としては、ミーティングに備えて周到に準備をして考えをまとめておきたいのに、いきなり始まるとそんな余裕が与えられない。知らない人々が集まるネットワーキングの会も逃げ出したくなる。
さらに、昨今流行のオープンオフィスも苦痛でしかないという。「いつも音楽が鳴っていて、ひっきりなしに人々が周りを行き交い、おしゃべりしたり電話したりしている。とても、とても気が散ります」とチャンは言う。実は、静かな環境を好む内向的な人々にとって、コロナ禍によってもたらされた在宅ワークは、効率的に仕事ができる安心な環境なのだという。
ジル・チャン◎ミネソタ大学大学院修士課程、ハーバード大学、清華大学でリーダーシップ・プログラム修了。米国州政府やメジャーリーグなどで15年以上活動。現在は台北に活動の拠点を置き、内向型のキャリア支援やリーダーシップ開発を国際的に行う。
誰もが、社会になじむ途上にある
ところで、本のなかでよく出てくる表現がある。「限られた資産」という言葉だ。人のなかにいるだけで疲労困こんぱい憊する内向的な人々にとって、仕事の場に身を置くこと自体が、心理的にもエネルギー的にも許容量ギリギリの状態に追いやる。だからこそ、その限られたリソースを有効に使わなければならず、そのために内向的な性格の特徴を踏まえて最大限の効果を生むように戦略を立てるのだ。実際にジル・チャンはどんな戦略を立てたのか? 続きは『Forbes JAPAN』3月号にてお読みいただけます。