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2023.02.07

「食べチョク」秋元里奈が見据える日本の農業の未来|クレイ勇輝

クレイ:少し話題を変えて、今、物価の上昇があらゆる業界に影響を与えていますよね。農業については、物価上昇がどう影響していくと秋元さんは見ていますか。

秋元 :日本は全体的に輸入に頼っている部分が大きくて、農業資材や肥料についても同じことが言えます。ただ、私はあまり悲観していません。こういう大きなネガティブな波って、ちゃんと乗りこなすとプラスに変えていけると思っています。
これまで食材においては、国産回帰を目指す声もあり、食糧自給率を上げようと長く言われ続けていました。これだけ物の値段が上がってくると、自分ごととして考えられる人が増えてくる。すると、今までよりも力を入れて状況を変えようとする人たちが増えるでしょう。一例に過ぎませんが、なるべく肥料を使わずに生産する方法を模索する人が今より増えるかもしれない。減農薬・無農薬での栽培はとても難易度が高く、時間もかかる取り組みですが、成功すれば生産コストが抑えられる部分もあります。そこまで視野を広げれば、物価上昇というネガティブな波は、むしろすごくポジティブな動きにつながるんじゃないかと思えるんです。そのなかで、私たちが貢献できる事業は何かを考えていきたいと思っています。

クレイ:いま農薬に関する話題が出ましたが、例えば、より希少なものをちゃんとプレミアムなコストで売っていくことと、コストがなるべく上がらないように耐えるのか、どちらが正解なのでしょうか。

秋元:二極化すると思います。農業は以前からコスト以外にもさまざまな危機に直面していました。わかりやすいのは農業人口の減少です。2015年から2020年の5年では毎年農業人口が減り続け、この間に約40万人もの人が農業から離れてしまいました(※)。こうした状況のなかで、とにかく量を増やして生産するために機械化が進み、同時に畑の面積を集約して大規模に作る傾向がどんどん強くなっています。

大規模な生産も必要なことですが、その一方で、地域の伝統野菜や、生産者固有の味や食感といった個性が失われてしまっています。超非効率ではあるけれど、文化的価値があるものは残していかなければいけないし、そこにこそ付加価値がある。だから、工場的な大規模生産で栽培する食材と、個性のある小規模生産者の高付加価値の食材とに二極化することは望ましい状態なのではないでしょうか。

クレイ:そういう個性のある小規模生産者さんを守るために「食べチョク」がある、というわけですね。今後、どのように事業を広げていきたいですか?

秋元:今後の展望としては、生産者さん個人にフォーカスされる状況を作っていきたいなと思っています。生産地よりも一歩踏み込んで、「●●さんが作った野菜が好き」「●●さんの野菜を買いたい」という意識が生まれてくるとより食卓は豊かになると思っています。

同時に、個性のある生産者さんが価格競争に巻き込まれず、高付加価値のある野菜を栽培することで勝負していけるといいなと思います。生き残るためには大量に生産して低価格で野菜を販売していくべきか、と方向転換を検討してしまう生産者さんが今はたくさんいます。そうではなく、自分の個性で勝負する方向に思考をシフトしてほしい。そういう環境をつくるべく、私も頑張っていきたいです。

(※)参考:農林水産省「基幹的農業従事者」


クレイ勇輝 1980年、新潟県生まれ、神奈川県逗子育ち。2005年以降、音楽ユニット「キマグレン」、海の家の経営者、実業家といった多岐にわたる活動を経て、現在は事業家、アーティスト、プロボクサーとして活躍中。

text by Ayano Yoshida

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