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2023.02.07

「食べチョク」秋元里奈が見据える日本の農業の未来|クレイ勇輝

秋元:細かく話すと、最初は実家の農業をもう一回始めることも考えました。ただ、もともと畑だった土地の大部分を、駐車場など他のことに活用していたので、農地として残っている部分は少なかったのです。家族で食べる分くらいの量しか野菜を生産できないだろう、という規模だった。事業化できるレベルまで農地を拡大するには何十年もかかるだろうな、という気がしました。

それよりもいま農業をしている人たちを応援して、自分と同じような悲しい体験をする人を減らそう、と考えるようになりました。ちょうどその頃に知り合った生産者さんとの出会いも大きかったですね。というのも、私は子どもの頃からキュウリが苦手だったのですが、ある生産者さんが作ったキュウリがそれはもう美味しくて、パクパク食べられたんです。とても感動的な体験だったのだけど、なんとその生産者さんが「そろそろ農業を辞めようと思っている」とおっしゃったんです。こういう素晴らしい品質の野菜を作る生産者さんが、農業を続けていける社会を作りたいなと思ったんです。

クレイ:その後は、生産者さんを一軒ずつまわって事業の説明をしていったんですか?

秋元:はい。ファーマーズマーケットなど生産者さんが集まる場に行って挨拶をするところから始めました。その後、実際に生産者さんの畑を訪ねて、一軒ずつサービスの説明をして歩いたのですが、実は「食べチョク」のようなサービスは過去にも他社がやっていたんですね。そのため、生産者さんは「また来た」「君みたいな人は結構いたけど、ほとんど続いてないよ」という反応をすることが多くて、最初は苦労しました。

クレイ:どのようにして生産者さんの協力を得ていったのですか。

秋元:自身が元農家の娘であることを伝え、生産者さんに会いに行った時一緒に作業をしながらコミュニケーションを取り関係を作っていきました。そのうちに「うまくいかないと思うけど、協力するよ」と言いながら賛同してくださる方が一人ずつ増えていったんです。

クレイ:最初はサービスの特異性をアピールするのが大変だったんですね。

秋元 :そうですね。生産者さんから見ると「うまくいかないサービス」という印象が強いようで。過去に類似のサービスがいくつも失敗しているのは知っていたのですが、その原因はタイミングが悪かったことだと私は分析していたんです。でも、時代は変わりました。メルカリなどスマホやPCを使ってCtoCで物を売買することが浸透した今なら、産直のサービスも流行るという自信がありました。

実際に、サービス開始から5年以上経って、現在の「食べチョク」のユーザー数は80万人、登録⽣産者数は8100軒にのぼり、5万点を超える食材や花きが出品されています(2023年1月時点)。

クレイ:生産者さんの反応も変わりましたか?

秋元:はい。特に初期に登録してくださった方は「まさかここまで成長するとは思わなかった」と言ってくださっています。
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text by Ayano Yoshida

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