ゼロサムの市場で、ゼロの人に思いを馳せる |経営のヒントになる「人間の安全保障」活動とは(後編)

立教大学大学院の長 有紀枝 教授(撮影=藤井さおり)

──特に金融を中心とした市場主義って、ゼロサムゲームじゃないですか。敗者を作ってしまう。社会を良くする資本主義を目指して、数学者のロナルド・コーエンさんが作ったインパクト投資。それを上手く今の社会に還元していけるか、それにはまず勝たせる。一方、負ける人に対しては、助ける仕組みを作ってあげる。そんな大きな設計図が必要かな、と思います。先生は、このような世の中をどのように考えていらっしゃいますか?
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まず、絶対的な敗者を作ってはいけないと思います。その意味で、Forbes JAPANの掲げる「インクルーシブ・キャピタリズム」という発想には、大きな可能性を感じています。先に申し上げた「人間の安全保障」にも、通底するものを感じます。

本来、市場はゼロサムかもしれない。しかしゼロの人に思いを馳せることを少しでもすれば、何かが生まれる。今の日本に欠けているのは、その部分ではないでしょうか。

諦めずに、行動あるのみ

──最後に、先生が研究科長をしていらっしゃる「立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科」について。ご活動内容をお聞かせください。

私たちが目指しているのは、多様で異なる価値観を持つ人々が共生していける社会です。こういう社会をデザインしようという、夢や理想を現実のものにするために果敢に挑戦し、諦めずに格闘してきた人々の多様な経験を「継承」します。
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そして先陣たちが築き担ってきた歴史を踏襲しつつ、新たな方法論と表現を獲得していくこと、やむにやまれぬ思いから立てた「問い」や課題の解決へ向け、粘り強いプロセスを歩む学生を育てることです。

そのための理論的な探究はもとより、現場と往復する当事者性と内発性をそなえた実践的な研究を、私たちは歓迎しています。修士論文の作成において、私たち教員はあくまで伴奏者です。諦めずに、もやもやを言語化すること。論文の執筆がゴールでなく、次に進むステップになれば嬉しいと思います。

──「諦めない」という言葉は、世の中のリーダーの方のみならず、色々な立場の方に対するメッセージとなるように思います。

様々な学生を見ていて思うのは、自分を諦めていない人は、他人にも優しくなれるということ。決して未来を諦めないで欲しいと思います。


長 有紀枝(おさ ゆきえ)◎立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授、社会学部教授。認定NPO法人「難民を助ける会(AAR Japan)会長、「人間の安全保障学会(JAHSS)」会長。長年にわたりNGOの活動を通じて、緊急人道支援をはじめ、地雷対策や地雷禁止条約策定交渉にも携わる。ジェノサイド研究、移行期正義、人間の安全保障などを専門とする。21世紀の国際社会が直面する課題に、真摯に取り組んでいる。

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インタビュアー=谷本有香(Forbes JAPAN執行役員・Web編集長) 文=中村麻美 写真=藤井さおり

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