マーティン・マクドナー監督 (C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
特に前回の「スリー・ビルボード」でもノミネートされた脚本賞は、まさにマクドナー監督にふさわしい賞であるように思える。劇作家として培ってきた作劇法は今回の「イニシェリン島の精霊」の脚本でも余すところなく発揮されており、パードリックとコルムの2人の確執だけでなく、彼らをめぐる島の住民たちの人間模様も、美しいが陰翳にも富む島を舞台に密度濃く繰り広げられている。
またこの2人の男の対立は、監督自身も海の向こうで起きているアイルランドの内戦の寓話のような側面もあると語っており、込められた意味合いにも深いものを感じる。さらに、マクドナー監督はこの対立を恋愛にも例えている。
「パードリックは、なぜコルムが縁を切りたいのか理解できないので、絶交宣言を受け入れようとしない。恋愛で振られたときの気持ちに似ている。『本当に僕のことが好きだったのか? 付き合っていると思っていたのは僕の勘違いだったのか?』という感じだ」
戦争にしろ、恋愛にしろ、「イニシェリン島の精霊」という作品から伝わってくるのは、対立や確執がどんなものに起因しているのか、それがどのようにエスカレートしていくのか、そしてどんな結末に導かれていくのか、そのような深く考えさせられる問いかけだ。
『イニシェリン島の精霊』は1月27日(金)から全国ロードショー (C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
アカデミー賞の最高の栄誉である作品賞に輝くのは、この「イニシェリン島の精霊」なのか、賞レースのトップを行く「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」なのか、はたまた世界的大ヒットを記録した「トップガン マーヴェリック」なのか、興味深く決定を待ちたい。
★アカデミー賞作品賞ノミネート10作品
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」
「トップガン マーヴェリック」
「イニシェリン島の精霊」
「フェイブルマンズ」
「TAR /ター」
「エルヴィス」
「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」
「西部戦線異状なし」
「ウーマン・トーキング 私たちの選択」
「逆転のトライアングル」