ビジネス

2023.02.07 08:40

「現状不満足」からのスタート。ポーラがウェルビーイング経営にこだわるワケ

ポーラ代表取締役社長の及川美紀(左)、筆者(右)

──それがポーラというブランドのリニューアルにもつながっていった?

はい、ポーラに関わる社員やお客様たちの永続的幸福を実現するためには、何をしたら良いかを考えながら、リブランディングしていきました。実は私たちの間にも、さまざまな化粧品を販売しているのに、なぜ新規のお客様が増えないのかという危機感がありました。
美容業界の有識者からも「ポーラの商品は間違いなく良い」と評価をいただいているのに、一般の方々の間では「昔、お母さんやおばあちゃんが使っていたブランド」と認識されていたのです。美容業界の有識者からも「ポーラの商品は間違いなく良い」と評価をいただいているのに、一般の方々の間では「昔、お母さんやおばあちゃんが使っていたブランド」と認識されていたのです。

実際に調査をしてみても、「好き」「嫌い」という反応以前に、「何も関心を持っていない」という方々が6割ほどいて驚きました。だから「ポーラが好き」と言ってくれる人たちを、せめて100人中50人に増やしたかった。そのためには、社員やビジネスパートナーのあるべき姿を定義するような、行動の指針となる「北極星」のような企業理念が必要だと思いました。

「社会」を主語にして新たに発想

──どのようにして企業理念を社内に浸透させていったのでしょうか?
ビューティーディレクターの発案で、小・中学生向け職業体験プロジェクトを開催する飛騨高山市の店舗を訪問する及川氏。ビューティーディレクターの発案で、小・中学生向け職業体験プロジェクトを開催する飛騨高山市の店舗を訪問する及川氏。

やはり企業理念で定めた言葉の概念は広義にわたるため、社員やビジネスパートナーが「自分ごと」にすることが難しいという問題がありました。

また、2020年に私が代表取締役に就任したこと、新型コロナウイルスによって社会に大きな変化がもたらされたこともあり、当社が100周年を迎える2029年に向けて、新たな中長期ビジョンを考えることにしました。

若手の部門長を集めて議論してもらったところ、これからは「企業」ではなく、自分たちが実現したい「社会」を主語にして、それに向かってポーラが取り組めることを考えられないか、という発想に至ったんです。

その結果、「私と社会の可能性を信じられる、つながりであふれる社会へ」という新たなビジョンが誕生しました。

ポーラは、全国に全国に約3000店舗があり、約3万人(2021年12月末)のビジネスパートナーがいます。さらに、ポーラの社員はフレンドリーな人間が多い。1人1人のキャラクターを生かして、「つながり創出カンパニー」をつくれるのではないかと思いました。

さらに社内で伝わりやすいように、それらの概念を図に落とし込んでいます。同心円の中心に私たちの「創業精神Care」があります。そこから「人をケア」「社会をケア」「地球をケア」と貢献する幅が広がっていく。

私たちが掲げている言葉「We Care More.世界を変える、心づかいを。」を、社員やビジネスパートナーに理解してもらい、自ら探しだせるようになってもらうために、動画やWebサイトなどさまざまなツールを使って伝えています。

社内に関しても本社ビル内にこの概念図を貼ったり、ひたすら役員が「We Care More.世界を変える、心づかいを。」を語ったりすることで、徹底して浸透させるための努力をしています。
2029年に創業100周年を迎えるポーラの行動指針は「We Care More」「私と社会の可能性を信じられる、つながりであふれる社会へ。」ポーラ企業HPより参照

2029年に創業100周年を迎えるポーラの行動指針は「We Care More」「私と社会の可能性を信じられる、つながりであふれる社会へ。」ポーラ企業HPより参照


──新たなビジョンの制定に対して、これが社会の利益にもつながるのかといった葛藤はなかったのでしょうか?

それはありませんでした。「つながりであふれる社会へ」を掲げているからこそ、むしろ1回つながったお客様とより深く、強くつながることを意識するようになりました。

例えば、新規顧客を100人獲得したとしても、その100人がまた買ってくれなかったら意味がありません。逆に、100人のうち80人が「またポーラを買いたい」と言ってくれたら、ブランドの価値は高まります。

だからこそ、各店舗の売上を見るだけでなく、顧客の継続率を大切にしています。お客様が私たちの商品やサービスを期待し、継続して利用してくれる。そして、さらなる期待値を求められるようになれば、お互いにとってWin-Winな関係になり、結果として会社の利益にもつながります。
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文=齋藤潤一

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