化粧品ブランドの「ポーラ」は、化学者でもあった創業者が、妻の荒れた手を見て独学でハンドクリームをつくったことから始まった会社です。まさに目の前の人の幸福を願って生まれたウェルビーイングなビジネスでした。
またポーラは、2021年に『ポーラ幸せ研究所』を創設するなど、企業全体でウェルビーイングの実現に向けた取り組みを行い社会へと発信しています。
そんなポーラの代表取締役社長を務めるのが及川美紀氏。1991年にポーラ化粧品本舗に入社し、美容教育や営業、商品企画・マーケティング、地域統括マネージャー等、化粧品事業のバリューチェーンを経て、2020年から現職を務めています。
筆者の私も会社経営者の1人ですが、普段から感じているのは、「仕事」は自分らしく幸せに生きるための手段の一つであるということ。自分も、そして働くメンバーや関わる全ての人が、よりウェルビーイングに生きられるような経営を目指しています。
世界的にも取り入れる企業や団体が増えてきているいま、 ポーラはどのように新たな企業理念やビジョンを掲げ、ウェルビーイングな経営に取り組んでいるのか。ポーラ代表取締役社長兼ポーラ幸せ研究所所長の及川氏に話を聞きました。
──なぜポーラは、ウェルビーイングな経営に注目したのでしょうか?
ひと言でいうと、「現状不満足」だったからです。
当社は、2012年からリブランディングを始めたのですが、その背景には社員やビジネスパートナーにポーラで働くことに対してもっと誇りを持ってもらいたいという思いがありました。
それまで、ポーラが手掛けるプロダクトの品質には自信があった。もちろん、お客様と向き合うビューティーディレクターの対応も素晴らしかった。
ただ、ポーラは知っているけれど、距離を置いているお客様もいて。2000年から2010年頃までのブランドに対する評価はあまり芳しいものではありませんでした。もう一度ブランド価値を高められないかと思い、2012年に有志が集まって、新しい企業理念をつくる取り組みを始めました。
──新しい「企業理念をつくる」ということは、相当な危機感があったのですね
そうです。もちろん、勝手に企業理念を変えることはできないため、社員にアンケートを取ったり、何度も経営陣に相談をしたりしていました。
それから3年が経った2015年に「私たちは、美と健康を願う人々および社会の永続的幸福を実現します」という企業理念を発表しました。
「ポーラに関わる社員やお客様が永続的幸福を実現するためには?」という問いかけを追求することで、「販売手法はこうであって欲しい」「商品はこんな形であってほしい」「サービスのクオリティはこうであってほしい」など、社内の行動指針も決まっていきました。
さらには、ポーラを愛用するお客様に良いことが起こり多くのリピーターや新規のお客様が来てくれたりするのではないか、ビューティーディレクターとして働きたい人が増えネガティブな理由による退職が減るのではないかなどの考えにも至りました。