男性ばかりの落語界に飛び込み、“女性ならでは“の表現を模索する彼女はどんな人なのだろう。実際に会ってみると、いい意味で大いに裏切られるのだった…。
発売中の『Forbes JAPAN』2023年3月号の第2特集は、「#バグのすすめ 1mmのズレを楽しむキャリア・働き方論」。
ターニングポイントというほど大げさでもない、日常の些細な変化や出来事を「バグ」と呼び、「人の心にポジティブなバグを仕込んでいきたい」と意気込む企画・編集会社「湯気」とともに、人生にバグを仕込んでいくヒントを探る。
第1回目は田村淳さん。第2回では、バグを起こし続けてきた落語家の林家つる子さんを訪ねた。
落語を始めたのも偶然の産物だった?
「いやぁ、思い返してみると意味不明なことばっかりですよ、私の人生。本当、意味不明の連続です」。そう言って明るく笑うつる子さん。会うなり、まじめな印象からは想像もつかなかったエピソードを次々に披露した。そもそも落語家を志したきっかけは、大学に入学した日の「タテカン囲まれ事件」にさかのぼる。「高校で演劇をやっていたので、大学も演劇部に入りたかったんですけど、落研に捕まってしまったんです。群馬から東京に出てきて、右も左もわからぬまま新歓の屋台の前を歩いていたら、いきなり目の前で漫才が始まり、そのまま立て看板で囲い込まれ、あれよあれよという間に入部していましたね」
何はともあれ、彼女は落語に魅せられた。「先輩たちが見せてくれた古典落語の演目をいまでも覚えています。ねずみ、新聞記事、あたま山......とっても面白かった。自分の同年代の人たちがやっているのを見て、あぁ、昔の人が楽しんでいたことを現代に生きる私たちも同じように楽しんでいるんだと、すごくロマンを感じてしまって」。落研には自衛隊合宿という謎の伝統もあった。朝6時に起床し、鋭い号令とともに隊列を組まされ、肉体強化に励む。「いま振り返っても、あれは本当に意味不明でしかない(笑)。まさにバグです」
落語家を志し、入門先を見つけるまではつらい時期が続いた。本当に落語家としてやっていくのか?という自問自答に加え、そもそも女性を弟子にとってくれる師匠がなかなか見つからず、焦燥感に駆られる日々。同級生は次々と就職を決め、晴れて社会人になっていく。卒業からあっという間に半年がたっていた。
その時も、ちょっとした気まぐれが未来につながる。たまたま新宿に立ち寄った際に末廣亭で二代目林家三平の襲名披露興行が行われていたのだ。「襲名披露って普段は一堂に会することのない有名な師匠方がズラリと並んでお祝いして、楽しいんですよ。ミーハー心全開でふらっと入りました」。
そこでくぎ付けになったのが、のちに師匠となる林家正蔵だった。「テレビに出ていた『こぶちゃん』のイメージが強かったのですが、寄席で古典落語に向き合う師匠の姿がもうカッコよくて感動しました。そしたらちょうど正蔵師匠が女性のお弟子さんを取られているということを聞いて。まさにご縁と運とタイミングでした」