一方ウナは、ニュースで父親の死を知って泣きじゃくるソウォンから「ママのところに送り届けて」と告げられ、母親を探しに車を走らせるのだった。
作品前半の流れを簡単に記したが、中盤からウナが37度線を越えてきた脱北者だとわかると、物語の様相はがらりと変わる。ペッカン産業の社長とウナの関係や、警察だけでなく脱北者の動向を扱う国家情報院の職員ハン・ミヨン(ヨム・ヘラン)の登場で、カーアクションにさまざまな人間模様が織り込まれていく。
とはいえ、いちばんのメインストーリーはやはりウナとソウォンの「バディ」ぶりだ。少しも感情を表に出さないハードボイルドなウナと、泣き虫の少年ソウォンの逃避行は、前述の母親探しも含めて、作品に笑いとペーソスも与えている。
ちなみに、ウナ役のパク・ソダムとソウォン役のチョン・ヒョンジュンは、アカデミー賞作品賞に輝いた「パラサイト 半地下の家族」(2019年、ポン・ジュノ監督)でも、それぞれ家庭教師と教え子の役を演じている。今回が再度の共演となり、息もぴったりだ。
10年余りで3作目の監督作品
ウナとソウォンの他にも妙味なキャスティングがある。まず「悪役」であるギョンピルを演じるソン・セビョクだ。是枝裕和監督の「ベイビー・ブローカー」(2022年)にも児童養護施設の園長として出演していたが、この作品では優しい物腰をちらつかせながらも、一転、悪の権化となる悪徳警官を演じている。その劇中での変貌ぶりは強烈な印象を残していく。
もう1人、ウナの上司でもある廃車処理場の社長役のキム・ウィソンのメリハリの効いた演技も特筆ものだ。互いの取り分についてウナとやり合う場面などユーモラスに演じたかと思うと、「特送」の運営者として自分たちの仕事に対して厳格な一面ものぞかせる。その緩急の度合いは絶妙だ。
緩急自在に主人公の「上司」を演じるキム・ウィソン。「パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女」は1月20日(金) からTOHO シネマズ日比谷ほか全国で公開中 (c) 2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & M PICTURES. All Rights Reserved
これらの演技陣を巧みに配しながら監督を務めるのは、2009年の長編デビュー作「影の殺人」以来、この作品がわずか3作目となるパク・デミン。2作目の「キム・ソンダル 大河を売った詐欺師」(2016年)では200万人を超える観客動員を記録、今回の「パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女」も韓国では初登場1位の人気作品となっている。
そのデミン監督、確かにヒットメーカーではあるのだが、10年余りで公開された作品はたったの3本。年間で2本も3本も同じ監督の作品が公開されるどこかの国とは事情が異なり、いかにも少なくは感じる。
かつてプサン映画祭で会った韓国の映画監督は、7年に1度くらいしかメガホンをとっておらず、そのときにお披露目された作品も、公開までにやはり5年ほどの歳月を費やしていた。つまり韓国の映画界では1本の作品に対する集中度は半端なく、脚本の練り込みや撮影までの準備がじっくりと行われ、結果として作品の完成度はかなり高いものとなっている。
それは今回のようなエンタテインメント色の強いアクション作品でも顕著で、同じく直近で公開された航空機内でのバイオテロを描いた「非常宣言」(ハン・ジェリム監督)もハリウッド作品に勝るとも劣らないクオリティを誇っている。
「非常宣言」は、バイオテロを目論む元化学者が持ち込んだウイルスが、航空機内に拡散され、次々と乗客が死を迎えていくという内容だが、飛行機に搭乗するのが怖くなるほど、機内でのパニックの描写は迫真に満ちている。
見えないウイルスへの恐怖に、墜落へのタイムリミット。加えて地上にいる人間と機内の乗客などの人間関係なども絡み、息をもつかせぬアクション作品を生み出している。「パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女」と並び、「非常宣言」も韓国映画の現在の実力を世界に示す作品となっている。
実は、この「非常宣言」を観た知人の映画関係者が、日本映画は撮影技術において30年以上は引き離されていると嘆息を漏らしていた。それほどいまの韓国映画の実力は優れているのかもしれない。
連載:シネマ未来鏡
過去記事はこちら>>