目利きの育て方|椿昇×小山薫堂スペシャル対談(後編)

東京blank物語 Vol.29

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」に、現代美術家の椿昇さんが訪れました。スペシャル対談第6回(後編)。

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小山薫堂(以下、小山):椿さんが現代美術に向かうきっかけは何だったのですか。

椿 昇(以下、椿):大学在学中にフィリップ・ベルという、アメリカ人留学生に「お前の作品はアートじゃない」と言われまして。彼にアメリカのコンセプチュアルアートを教わったんです。

小山:最初に衝撃を受けた作品は?

椿:ミニマルアートです。スチールの板だけみたいな、ほとんど何の表現もしていない作品。フィリップ自身もすごくて、自分の胃液の作品とかつくっていた(笑)。

小山:胃液!?

椿:胃液を出してスチールのピペットに並べたり、自分の髪の毛で筆をつくったり。概念芸術ですよね。彼は京都・鞍馬の小さなコテージに住んでいたんですけど、壁にウルトラマンのお面がひとつだけ飾ってあるんですよ。

小山:祭りで売っているお面をそのまま?

椿:そう。それ以外は一切モノがない。自身の生活空間がそのままミニマルアート。哲学者みたいな男でした。

小山:確かに想像するとカッコいい。その方も現代美術を続けているのですか?

椿:ネバダ州に大富豪しか住めない小さな村があって、そこで邸宅の建築デザインをしています。例えば「古代ローマの泉」をテーマにして、ジャグジーとプールを泳いだ先にヴェスヴィオ山があるというような。

小山:それは住んでみたい(笑)。

椿:2009年に8×10(エイトバイテン)という大型カメラを担いでアメリカの鉱山跡地を回ったことがあるのですが、そのとき彼に「ラスベガスの空港で車を借りろ。アメ車はダメだ。ヒュンダイにしろ」と言われたんですね。

小山:途中で止まるからですか?

椿:そう。それでヒュンダイで人生初のアメリカ横断をしたのですが、見るものすべてがダイナミックで、「Too late!」と叫んじゃった。50も半ば過ぎて来るところじゃない。ああいう旅は若いときに経験すべきですね。

フェティッシュやラバーには敵わない

小山:いま大学で教えておられますが、学生に対して伝えたいことはありますか。

椿:伝えるも何も、僕、作品を100点描かない学生とは口を利かないんです。

小山:100点というのは、満点の意味?

椿:いや、数。いっぱい描いていたらそれでOK。いっぱい描くとか、いっぱい食べるとか、いっぱい飲むとか、なんでもいいから数や量を極めることが大事だなと。

小山:なんなら酒でもいい(笑)。

椿:そう! 朝から晩まで飲んだくれて缶チューハイに詳しいやつとか面白いじゃないですか。やっぱりオタクやフェティッシュやラバーには敵わない。人間、「努力」とか考えているうちはあかんと思う。放っておいても何かやっている人、集中できる人が、最終的にその世界を制するんですよ。薫堂さんも銭湯ラバーですよね。日本中の銭湯を回られましたか?
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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