目利きの育て方|椿昇×小山薫堂スペシャル対談(後編)

東京blank物語 Vol.29

小山:全然そこまでは。3000湯制覇というマニアな方もいるけれど、僕は気に入ったところに何回も通うタイプなので。

椿:それも数のうちですね。しかも風呂好きが高じて『湯道』という映画までつくっちゃうなんて(笑)。ラバーの鑑です。

小山:僕が京都を好きな理由のひとつに、銭湯がまだ多く残っているという文化的側面もあります。

椿:いや、僕ら京都人から見ると、いま京都がもっているのは東京のおかげですよ。京都自身にそんな力はないと思う。京の味も、例えば西陣が元気なころは旦那衆が1年で500万円くらい使っていた。しかし旦那衆がいなくなり、味も落ちた。

小山:芸術も食も建築も同じく、よい消費者がいるからこそ育つし、守られる。

椿:おっしゃる通り。エンドユーザーの目利きがいないと、すぐ滅びます。

小山:目利きはどう育てればいいですか。

椿:自分が目利きになりたかったら、まず買うこと。当事者になって責任を引き受ける。薫堂さんはどう思いますか?

小山:消費者を目利きにする以前に、送り出すほうにも責任があると思うんですよね。相手の欲しがるものだけをつくるのではなく、「この人にとってはこちらがよい」と思うものを提案する。それで対立することも含め、後世に残るよいものを追求する関係を互いに築けるといいのかなと。京都にはまだそういう文化が残っているんじゃないですか。お得意さんを大切にしたりとか。

椿:常連さんは大事にしますね。

小山:エコ贔屓、大切ですよね。

椿:エコ贔屓、めっちゃ大事! エコ贔屓はもう美学ですよ(笑)。

今月の一皿

スリランカの旅で初めてスパイスに目覚めたという椿に、東京・青山タップロボーンの「スリランカチキンカレー」を。



blank

都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。



小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

椿 昇◎1953年、京都府生まれ。現代美術家。京都芸術大学教授、東京藝術大学油画客員教授。93年、ヴェネツィア・ビエンナーレに参加。2018年「ARTIST'S FAIR KYOTO」を創設、現代アートの新たなるプラットフォーム育成に注力している。

写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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