ビジネス

2023.01.25

値上げ差分をピンハネ? 物流ピラミッドは「物価高騰下の消費者を裏切るな」

RUNSTUDIO/Getty Images

ドライバーは24万人不足、3割のモノが運べなくなる試算も

とはいえ仲介のビジネスモデルを単純に批判するものではない。元請け責任をまっとうし、営業に力を注ぎ、経理業務なども行う手間を考えれば手数料がかかるのは当たり前だからだ。多重下請け構造に巻き込まれたくないのであれば、営業力をつける他ないと考える。

ただしそのうえで、昨今の物価高・コスト高を取引価格に転嫁しないのはきれいな取引といえるだろうか。

帝国データバンクの調査によると、2022年度上半期の物価高を理由に倒産した企業のうち、業種詳細別上位は「運輸業」が37件で最多となった。そうでなくとも人手不足が問題視される業界である。インフラのひとつである「物流」を支える中小運送企業の倒産が続けば、2027年にはドライバーが24万人不足し、2030年には物流需要のうち約36%が運べなくなるという試算も出ている。モノの流れの上流(メーカー)から下流(消費者)における協力がなければ、この危機的状況は乗り越えられないと推測できる。

物流の見える化は下請け構造を変えるか

こういった多重下請けの悪い側面を改善する手段となりうるのが、政府主導で進めている「スマート物流」だ。これまで物流業界では電話やFAXといったアナログな手法が一般的であったため、配送依頼は空車や荷物を求めて伝言ゲームをするしかなかった。

運送会社は「今日大阪で4トン車が空いているから、仕事があったら声をかけください」と当てもなく電話で営業をし、荷主は「今日4トン車を大阪で探しています。車は空いていますか?空いていなければ協力会社様でも構いません。あてがあれば教えてください」と空車を探す。需要と供給がマッチするまで伝言ゲームを繰り返し、その過程で下請け構造が生まれる。ひたすら生産性の悪い作業だ。

伝言ゲームをつなぐマッチングサービスやプラットフォームは存在するが、取引に透明性がない場合には下請け構造が余計に多重化したり、手数料も不明瞭であったりと問題が残った。

これらの需要と供給、そしてモノの動きをデータとして見える化し、業界や競合の垣根を超えて共同配送ができる状態を「スマート物流」は目指している。点在するプラットフォームは連携できるようになり、求貨・求車のデータや実際の車の動きをそこで開示する仕組みだ。大きな枠組みで直接マッチングできるようになれば、今回公正取引委員会が指摘したような不透明な取引は緩和されるものと期待したい。

物価高の中、給与が上がらないスタグフレーションが危惧されている。コストへの転嫁が適正に行われなければ、状況の悪化も考えられるだろう。物価の高騰をなんとか受け入れている消費者の気持ちをも置いていかないでほしいと願うばかりだ。



田中なお◎物流ライター。物流会社で事務職歴14年を経て、2022年にライターとして独立。現場経験から得た情報を土台に、「物流業界の今」の情報を旺盛に発信。企業オウンドメディアや物流ニュースサイトなどで執筆。

文=田中なお 編集=石井節子

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