3年前からの新部隊構想が具体化、日米が示した覚悟と課題

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そして共同発表文は「米国との緊密な連携の下での日本の反撃能力の効果的な運用に向けて、日米間の協力を深化させる」とうたった。共同発表文は「(日本は)地域の平和と安定の維持に積極的に関与する上での役割を拡大するとの決意を再確認した」とも強調した。日本に対する武力攻撃事態だけではなく、台湾有事や朝鮮半島有事などの際、米軍を守るための集団的自衛権の行使ができる存立危機事態でも、反撃能力を使うという意味だろう。

また、共同発表文は「とりわけ陸、海、空、宇宙、サイバー、電磁波領域及びその他の領域を統合した領域横断的な能力の強化が死活的に重要である」と強調した。これは、ロシアによるウクライナ侵攻によって、改めて日米関係者に刻み込まれた点なのだという。ロシアは昨年2月の侵攻時、電磁波攻撃などをかけてウクライナの衛星通信網を無力化した。日本など世界では、ウクライナの通信インフラを支えたのが、米スペースX社の衛星インターネットサービス「スターリンク」だとされている。だが、それだけにとどまらず、米軍は自らの軍用衛星通信網とウクライナの通信網を連結させていたという。ウクライナ軍は米軍がとらえた情報をリアルタイムで共有し、ロシア軍の戦車や航空機の破壊に大いに貢献したという。

自衛隊は現在、米軍の指揮系統の情報共有網、GCCS(グローバル・コマンド・コントロール・システム)を一部共有している。いわゆる「CENTRIXS(セントリクス)」と呼ばれる共有網だ。作戦地域の米軍や自衛隊、敵軍の状況が数値でもビジュアルでも把握できるようになっている。ただ、一緒に作戦行動するための戦術システムは米海軍と海上自衛隊の「リンク16」だった。最近は、航空自衛隊と米軍との戦術システムの共有も進んでいるが、陸自と米陸軍・海兵隊との共有はこれからだ。おそらく、ウクライナの状況を教訓に、陸自と新たに編成される米海兵沿岸連隊とが、戦術システムも共有することになるのだろう。

これが、メディアが強調する「日米の一体化」だ。日米には「同盟調整メカニズム」と呼ばれる、様々なレベルで協議して、どのように連携するかを決める仕組みがある。「日米の一体化」が進むだけに、日本政府の決断には重い責任が伴う。共同発表文が「同盟調整メカニズムを通じた二国間調整を更に強化する必要性を改めて強調」としたのは、その覚悟を示す意味があるのだろう。

日本政府関係者の1人は「安全保障は最悪のケースを考えなければいけない。考えたくないことだが、不幸にして中国と戦争状態に入ったとき、日本は独力で戦争を終わらせる力がない。だから、日米の一体化を進めるしかない」と語る。

第2次大戦当時、日本は日独伊三国同盟や真珠湾攻撃などによる米国の戦意喪失を頼りに、1941年12月、米国に宣戦布告した。ところが宣戦布告当時、モスクワに向けたドイツ軍の侵攻が止まっていた。真珠湾攻撃によって米軍は大きな損失を受けたが、産業のフル稼働によって戦力を回復し、「戦意喪失」とはならなかった。

「日米の一体化」を拒否し、日米同盟を捨てて中立政策に転じることも理論的には可能だが、莫大な時間とコストがかかるだろう。「中国は気にくわないが、日米一体化も嫌だ」では、おそらく生き残れない。日本の国益を最大限に主張しながら、日米一体化を進めていくしか、現実的な選択肢がないように見える。

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文=牧野愛博

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