ビジネス

2015.06.17

社員の健康を気遣う企業だけが成長する!

Nosnibor137 /Bigstock

社員の健康を大切にする企業は、じつは経営が優良で株価も高い―。
健康管理をコストと投資のどちらで捉えるか? それで会社の未来が占える。


今春、経済産業省と東京証券取引所がタイアップして「健康経営銘柄」を選出した。私もその選定評価委員のひとりとして議論に加わり、大いに議論をした。
「健康経営」という言葉に聞き覚えがない方は多いかもしれないが、ごく最近のものではなく、30年前にアメリカの経営学者によって提唱された概念である。これは、「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくる」という考えがベースにある。

はたして、会社が従業員の健康増進に対して支出を行うことはコストなのか、それとも投資なのか、というのはそれほどに古くて新しい議論だ。そして、会社によってその意識に大きな差がある。

そもそも、会社は誰のものか? 株主のものであるのは明白であるが、ステークホルダーも広い意味では関連しているのはまちがいない。従業員のがんばりなくして成り立つ会社はほぼありえないわけで、従業員の知識や経験、人間性、インセンティブなどが経営に重大な影響を与えることに異議を唱える者はいないはずだ。

そのなかで心身ともに健康である人たちが大半の会社と、心身ともに病んでいる人が多い会社とでは、どちらがより高いパフォーマンスを発揮するかも、本来は自明の理であるはずである。

しかし、その決定的に重要な従業員の価値は、経営指標のなかではほとんど表現されない。損益計算書では人件費などの形でコストとして表現され、バランスシートでは資産として計上されない。これはある意味、経営指標の欠陥であると私は考えている。



従業員のがんばりを表す指標

私が投資家として重視しているのは、経営者を含めた従業員の意識の高さや、がんばりである。しかし、それはインタビューをしたり、会社訪問をしたりすることでしか発見できないし、それを嗅か ぎとるための経験やセンスも必要である。
そこで、「なんとか客観的な指標でそのような会社の態度やありかたを調べることができないか」というチャレンジが、今回選出した健康経営銘柄である。

経済産業省と東京証券取引所は「なでしこ銘柄」(図1参照)を選出し、女性活用を促している会社に対してインセンティブを与えようとしている。

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これは、大いに賛同できる話である。なぜなら日本は、女性の社会進出が他の先進国に比べても大幅に遅れている。特に、企業社会のなかで活躍の機会が与えられているか、といえば甚だ心もとない。そのため、女性の活躍という点に絞って企業を発掘していくことを促進することは、日本の成長率を高めることにつながる。

同様に、「健康経営」という観点で投資家が評価軸をいれていくことは、日本社会において働く人の幸福度が上がり、結果的に豊かな企業社会を確立することになる。そして、そのような会社の株価がいずれ大きく上昇するのはまちがいない。
(健康経営銘柄については図2参照)

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アンケートに答える企業は優秀

このような評価をすると、どうしても組織的な対応がしっかりしている大企業が中心になるという問題もある。しかし、まずはこのような取り組みを示すことが非常に重要である。健康経営銘柄は、全上場企業へのアンケートと自己資本利益率(ROE)の水準などを考慮して決定された。

実際に株価がどうだったのか気になるところであろうが、2005年1月末〜15年2月末までの実績は、図3の通り。
この10年間での株価の成績は、東証株価指数(TOPIX)が32.3%のプラスに対し、健康経営銘柄の優秀企業が86.9%と大きく上回っていることがわかる。健康経営に関心を持っている企業の株価が高いことを証明できたわけだ。

さらに重要なのは、健康経営企業についてのアンケートに回答してくれた会社が東証株価指数よりも株価が高い点である。
というのも、アンケートに回答してくれた会社だけでTOPIXを上回ったからだ。

これは意義深い話で、自分たちの会社の内容をきちんと外部に公表したいか、あるいはしたくないか、という態度が株価に影響をしているからである。

もし読者諸賢に上場企業の広報やIR担当者がいるようであれば、面倒かもしれないが、ぜひ各種アンケートには積極的に回答をしていただければと思う。

このような取り組みには、継続性が重要である。今回も1回だけの取り組みで終わることがないよう、経済産業省と東京証券取引所には、ぜひ来年度以降も継続的に取り組んでいただきたい。

また今後の課題だが、調査企業の業績や株価の推移などをつぶさに観察をすべきだろう。確かに、「健康経営銘柄」に対する投資が有効であるというのは、ほぼ有意義な結果が見えている。とはいえ、株価との関係という点では、まだ仮説に近いとこ
ろがある。

データの蓄積によってこれが明確になれば、健康銘柄に対する投資評価が確立され、結果的にそれが投資の尺度として幅広く採用されるはずだ。そして、その結果がよりよい社会への実現につながるだろう。
私は、そう信じている。

文=藤野英人

この記事は 「Forbes JAPAN No.12 2015年7月号(2015/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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