リンクトインに掲載された求人情報によると、TikTokは、クロスボーダー決済ソリューションを提供するためのスタッフを募集しており、JPモルガンに10年勤務した後にバイトダンスに移籍したキングスレー・ラム(Kingsley Lam)という人物がその部門のトップを務めている。さらに、他にも複数の元JPモルガンの幹部が、イギリスや上海、北京のバイトダンスの決済チームに移籍した。
地政学リスクのコンサルティング企業、ユーラシア・グループのシャオメン・ルー(Xiaomeng Lu)は、これらの元JPモルガンの社員らの動きが、バイトダンスが高額な報酬を提示して、引き抜きを行っている証拠だと考えている。
一方、つい最近、中国市場へのアクセスを確保したJPモルガンにとって、バイトダンスとの提携は中国のフィンテック市場への足がかりとなる可能性があるという。「アリペイはもはや党の指導者の支援を受けられなくなっている。JPモルガンは、この機会に中国市場に食い込みたいと考えている」とルーは分析する。
また、バイトダンスにとってアメリカの大手銀行であるJPモルガンとの提携は、賢明なポジショニングと言える。「バイトダンスは、米国の主要なプレーヤーと協力するこで、会社をより信頼あるものに見せられる。彼らは、自分たちの評判を高めてくれるようなパートナーが欲しいのだろう」とルーは語った。
TikTokは米国で禁止されない
しかし、元国家安全保障局のガーステルは、米国の企業が中国のフィンテック企業やその運用方法を把握することは有益かもしれないが、「欧米のユーザーの個人情報が、中国当局の手に渡るリスクが、大きな懸念として挙げられる」と述べている。また、米国の法執行機関が容易にアクセスできない金融プラットフォーム(それはデジタル人民元などの別の通貨システムを持つ)に米国の大手銀行が関わることは、「潜在的に大きな問題」になり得るという。
これらの問題の一部は、米財務省が主導する対米外国投資委員会(CFIUS)による、国家安全保障の取引のテーマになる可能性がある。ユーラシア・グループのルーは、TikTokへの懸念は高まっているものの、このアプリの人気の高さと、多くの米国企業が取引を行っていることを理由に、このアプリが米国で全面的に禁止されることは、あり得ないと述べている。
今後の取引の結果、規制の強化やスピンオフが起こる可能性もあるが、ルーは、それがより多くの米国企業がバイトダンスと協力することにつながると考えている。
「CFIUSが、新たな基準を設けてバイトダンスがそれを遵守すれば、銀行にとって大きなシグナルになる」と彼女は述べている。「その結果、JPモルガンと同様なスキームでバイトダンスに協力する米国企業が増えるかもしれない。JPモルガンとしては、その方が長期的に見て、喜ばしいことと言えるだろう」とルーは語った。
(forbes.com 原文)