例えば、「部下や社員の心が離れてしまった」「上司と意見が合わない」「職場で同僚とぶつかってしまう」などの悩みであるが、そうした人間関係の問題を真に解決するためには、操作主義的な対人術は逆効果であり、やはり、我々に深く求められるのは、人間の心の「エゴ」に処する力である。
その第一は、「相手のエゴに処する力」であり、第二は、「自分のエゴに処する力」である。
第一の「相手のエゴに処する力」とは、すなわち「相手のエゴの思いや叫び」を理解する力である。
人間関係が壊れるのは、ほとんどの場合「自分のエゴの視点」を「正しい基準」であると思い込み、相手の言動を「間違っている」と批判し、非難し、ときに、嫌悪する状況に陥ってしまうからである。
しかし、もし我々が、次のような視点で相手を見つめることができるならば、相手の姿は、全く違って見えてくる。
「たとえ、どのような姿を示していても、相手には相手の、必死の思いがあり、心の叫びがある」
「自分も含め、誰もが未熟さや欠点を抱えており、その未熟さや欠点で、内心、悩んでいる」
「誰もが、心の中に、扱いにくいエゴを抱え、そのエゴに振り回されて、苦しんでいる」
それが、「相手のエゴの思いや叫び」を理解する力に他ならず、この視点の転換ができたとき、不思議なほど、自分の心が変わり始め、相手との関係が好転していく。
しかし、人間関係の問題を超えていくためには、この第一の力だけでなく、第二の「自分のエゴに処する力」を身につけていかなければならない。
ただし、それは、世の中でしばしば安易に語られる、「エゴを捨てる」ことや「我欲を捨てる」ことではない。
なぜなら、我々の心の中の「エゴ」や「我欲」は、生物としての「生存本能」と深く結びついた、極めて強固なものであり、捨てようと思って捨てられるほど、生易しいものではないからである。
そのため、「エゴを捨てよう」と思って、エゴを抑圧しても、それは、一時、心の表面から姿を消すだけで、必ず、どこかでまた、鎌首をもたげてくる。
では、その厄介なエゴに、どう処すれば良いのか。