「元」をもっと使おう。元〇〇思考法

イラストレーション=尾黒ケンジ

働き方やキャリアが一層多様になっているいま。何を大切にして何を仕事にしたいか、今後のキャリアを考えるときに悩む人は多いのではないだろうか。そこで、ヒントとなり得るのが「元◯◯思考法」だ。難しいことではない。自分の「元」と向き合うだけだ。この記事で、具体的な事例を交えて紹介したい。


元アスリート、元アナウンサー、元遊園地、元学校、元映画館……。世の中にあふれている元〇〇。実はこの「元」にはすごい資産が隠されている。

「元」という履歴=キャリアと向き合い、うまく生かせることができたら、ビジネスを差別化するアイデアが生まれ、これから自分が進むべきキャリアの選択肢が広がっていくだろう。VUCA(不確実な時代)といわれるいま、人々の価値観や消費行動の複雑化に伴い、肩書や仕事も従来の枠組みでは語りきれなくなっている。多様な選択肢にあふれ、自分らしさや強みを自由に発揮・表現することができるキャリアを選べる時代だからこそ考えるべき、新しい「元〇〇思考法」についてご紹介する。

まず、私が「元」の価値を強く意識するようになった経緯から。

元映画館との出合い


当時同じ大学の建築学科を卒業した仲間とデザインチームをつくり、自分たちの場所をつくるべくさまざまな物件を探していた。そのなかで見つけたのが、約30年前に閉館した東京・日暮里にある廃虚の映画館だった。出合った当時はボロボロだったその映画館に入った瞬間に魅了され、自分たちの場所づくりがスタートしたのだった。

しかし、簡単には進まなかった。昔の映画館のため、法規的に映画館として再出発ができなかったからだ。ではどんな場所にするか。ブレストしているときに「元映画館だから~」「元映画館に~」とメンバーが口々に話すのに気づいた。いっそ「元」映画館というバックグラウンドそのものを施設の名にしてはどうか? そこから「元映画館」と名付けた。そして、この当時の趣を残した空間を見て「元映画館で〇〇をしたい」といったアイデアをもつ方々と一緒に実現するオルタナティブスペースとして運営している。

例えば、大きなスクリーンを生かして映像アーティストの展示を行ったり、映写室を秘密のバーにしたり。元映画館だからこその価値を存分に活用している場所は日本にはなかなかない。


30年前に閉館した廃虚の映画館の面影を極力残しつつ改修したオルタナティブスペース。

元〇〇をキャリアに生かす


日本では戦後に数多くのスクラップ&ビルドを行い、場所のもつ文脈を排除してきた。しかし、「元」がもつ履歴=キャリアを最大限に生かすことで、その場所の記憶や文化を顕在化させ、その積み上げで差別化を生むことが、現代に求められるマーケティングの価値のひとつだと感じている。

それは街や建物だけでなく、人も同じ。終身雇用の時代が終わったいま、子どものころに夢中だったことや大学で学んだことなど、人生で培ってきたことと向き合い、活用することで固有の強みとなり、未来の選択肢を広げることができるはずだ。
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文=高橋窓太郎 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN No.099 2022年11月号(2022/9/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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