「元」をもっと使おう。元〇〇思考法

イラストレーション=尾黒ケンジ


例えば、元サッカー日本代表の鈴木啓太さんは、腸内細菌と腸内環境の研究をベースに、腸内細菌からコンディションを整える商品開発を行うAuBという会社を立ち上げ、現在は実業家として活動している。

この事業は、鈴木さんが幼少期から「人間は腸が大事」と親から伝えられていたこと、またプロのアスリートとして向き合ってきた「腸内細菌コンディション」という自身の経験がルーツにある。また、プロアスリートとのつながりを生かして、日本でいちばんアスリートの腸内細菌の研究データを保有しているという強みが差別化につながっている。

また、これは実体験だが、ある日上野の居酒屋で飲んでいるとき、テーブルに男性が近づいてきて「ぜひマジック見ませんか」と声をかけられた。断ろうとしたとき、「実は私、元警察官のマジシャン・催眠術師なんです」と言われ、その一言に興味を引かれてマジックと催眠術を見ることに。

いわば人をだましたり洗脳する職業と、元警察官というワードのかけ合わせが新鮮で、それだけで体験への期待感が増したのだ。また、催眠術にかけられたことがない自分にとって、元警察官であるということが居酒屋という場所でそれを体験するうえで安心する材料になった。

このように、元〇〇(過去のキャリア)を分析し、強みやこだわり、大切な価値観などをリストアップすることで、いま自分が本当にやりたいことや課題が見つかるかもしれない。

かくいう私も、今年7月に約8年間働いた電通を退職し、現在は東日本大震災で被災した町、宮城県石巻市雄勝町で美術館の立ち上げをしている。震災後に建設され、豊かな自然の風景を奪った10mの防潮堤の壁面に巨大壁画を描き、アートの力で豊かな風景を生み出すことを目的とした「海岸線の美術館」という名の美術館だ。

ここの立ち上げも、大学で建築を学び、広告代理店で8年間働いた自分のキャリアのすべてを注ぎ込んでいる。いま、自分のキャリアや仕事に悩んでいる方はぜひいままでのキャリアに向き合ってみてほしい。ヒントが隠されているかもしれませんよ。

本連載で発表しているすべてのコンセプトは、実際にビジネスに取り入れられるよう、講演や研修、ワークショップとしても提供しています。ご興味ある企業の方は、Forbes JAPAN編集部までお問い合わせください。


電通Bチーム◎2014年に秘密裏に始まった知る人ぞ知るクリエーティブチーム。社内外の特任リサーチャー50人が自分のB面を活用し、1人1ジャンルを常にリサーチ。社会を変える各種プロジェクトのみを支援している。平均年齢36歳。合言葉は「好奇心ファースト」。

文=高橋窓太郎 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN No.099 2022年11月号(2022/9/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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