ロシア産原油の上限価格設定に効果はあるか

2022年12月20日、ウクライナのバフムートで、砲撃戦の中、ロシア軍に迫撃砲を発射する準備をする特殊部隊のウクライナ兵士たち(Photo by Pierre Crom/Getty Images)

ロシアの原油と天然ガスはウクライナ侵攻の資金源になっている。原油価格が最高値をつけた2022年6月には、ロシアはこれらの資源の販売によって月に210億ドル(約2兆8700億円)の収入を得ていた。

これに対して、西側諸国は海上輸送で輸出されるロシア産原油に1バレル60ドルの上限価格を設け、収入を細らせようとしている。これにより、ロシアの月間原油収入は100億〜150億ドル(約1兆3600億〜2兆500億円)に減るとの試算もある。

だが、12月5日に発効したこの制裁措置がはたしてプーチン大統領の戦争計画を狂わせることができるのかには、大きな疑問がある。そもそも、原油価格はこのところ需要の減退によって下がってきている。また、ロシアは中国やインドなど代替輸出先を見つけることもできるし、生産量を制限して価格を押し上げることもできる。

たしかに、ロシア産原油の海洋輸送での輸出量は価格上限設定後の1週間に16%、日量50万バレル減った(市場調査会社ケプラー調べ)。また、ロシア中央銀行は、価格上限設定や欧州連合(EU)による石油輸入禁止はロシア経済に打撃を与えるおそれがあると警戒感を示した。

だが、この措置が効いていると即断することはできない。12月半ば時点でロシア産原油の指標価格は1バレル約66ドルと、国際的な指標の78ドルを大きく下回っている。ポーランドやエストニア、リトアニアは、上限価格を30ドルにするよう求めていた。この水準なら、たしかにロシアにとってかなりの打撃になるに違いない。

西側諸国は上限価格をいつでも引き下げられるだろうが、短期的にはエネルギー市場の混乱を避ける必要もある。一方のプーチンは、世界の石油部門はすでに投資不足の状態にあると述べ、西側諸国による上限価格の設定は「愚かで浅はかな案」だと断じている。

短期的にはエネルギー価格の高騰覚悟を


戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアフェロー(エネルギー安全保障・気候変動担当)、ベン・ケーヒルはこう書いている。

「いまのところ、価格上限の設定はロシア経済を弱体化させる強力な手段にはなっていない。市場のファンダメンタルズがいまより緩く、インフレに対する懸念も少ない時期であれば、政策当局はロシアに圧力をかけるのにもっと踏み込んだ措置をとれただろう。現時点ではエネルギー安全保障上の懸念が大きく、G7(主要7カ国)はより長期的な対応をとらざるを得なくなりそうだ」
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編集=江戸伸禎

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