ロシアは、市場価格での支払いを拒む国には原油を売らない方針を示している。以前よりも3割ほど安い価格で購入できるようになった中国やインドは、ロシア産原油の輸入を増やしている。だが、両国にしてもロシアから原油をいくらでも輸入できるわけではない。国内のインフラの受け入れ能力には限界があるからだ。
他方、欧州市場でロシア産原油のシェアは低下している。欧州は原油の新たな調達先を開拓しており、電気自動車(EV)などより環境に配慮した技術への移行も進めている。
ロシア連邦統計局によると、2020年のロシアの原油・天然ガス収入は2190億ドル(約30兆円)で、両部門で輸出の60%、歳入の40%を占めていた。調査会社スタティスタによると、ロシアの原油生産量は2022年1月に日量約1130万バレルだったが、9月には約980万バレルに減っている。
上限価格設定などの対ロシア制裁に効果はあるのか。西側諸国はそれについて政治的な主張をしているが、いずれにせよロシアがなお原油などの販売によって戦費を調達しているのは確かだ。
原油は生産コストが1バレル20ドル程度なのに対して、世界での取引価格は70〜100ほどドルだから、現状の上限価格でも利益が出る状態にある。また、ガスプロムやルクオイル、ロスネフチといったロシアのエネルギー大手は、たとえ市場が縮んでも存続できるかもしれない。
原油の上限価格設定は、ロシアに対する新たな制裁のなかではおそらく最も弱いものだろう。より強力な武器になるのは、たとえば米国やEUの管理下にある世界の海運業界に対する締めつけだ。海運会社は、上限価格を守らない国へのロシア産原油の輸送を明確に禁じられているが、その状況の監視はまた別の問題になる。
一方、ロシアは減産によって原油価格を上げる可能性もある。ロシア側からすれば、西側諸国の経済に打撃を与え、それを通じてウクライナへの支援も弱めるという二重の効果が期待できる。「米財務省は原油価格が高騰する可能性を非常に懸念しているので、ロシアの原油収入にたいした影響を与えない程度の、高い上限価格なら許容できるという判断なのかもしれない」とケーヒルは推測している。
こうしたなか、ウクライナはロシアによる爆撃を受け続けている。ウクライナの環境検査機関によると、住宅や発電所は言うまでもなく、土地や水も破壊や汚染の被害に遭っている。
西側諸国は、短期的なエネルギー価格上昇に耐えながら、引き続き原油などの調達で脱ロシアを進めていく必要がある。厳しい戦いになるだろうが、民主主義の大義はそれに値する。ウクライナもまた、この大義のために戦い続けるだろう。
(forbes.com 原文)