ハンドメイドで高まる、体の機能性
【ペーパークイリング】
写真4=タンポポのストラップ
細長くカットされた色紙を、錐状の道具などに巻き付けてパーツを作り、それを組み合わせて作品にする。通称「くるくる」。タンポポを作ったら、ヘルパーさんにほめられ、うれしくてストラップにしてプレゼントした(写真4)。
最後の年となった2021年のお正月作品(写真5)は、繊細な鶴と正月飾りの組み合わせが見事だ。たつ江さんによれば「作り始めると熱中して止まらなくなって、何時間も机に向かっていました」。
写真5=2021年正月用のペーパークイリング作品
【ウロバックカバー】
尿道のバルーンカテーテルによって、尿は半透明のウロバックに溜まっていく。介護者たちには見慣れた風景だが、友達が来たときのためにも、カバーがほしい。2013年に古着の甚平をリメークしたカバー(写真6)。好評で、訪問看護師さんの要望を受け他の患者に作ってあげたりした。
写真6=古着をリメークしたウロバックカバー
【革細工】
2017年から押富さんの自宅で、革細工の教室が2カ月に一度ほどの頻度で行われるようになった。講師は、専門学校時代の恩師だった笹原節子さんで、他の卒業生たちも集った。講座は計15回に及び、バッグのファスナーに付けるストラップ、財布、ヘルプマークなど、さまざまな作品が生まれた。革細工に欠かせないのが刻印。手先が器用な押富さんは、専用のカッターで表面に切り込みを入れて刻印を浮かび上がらせるのが得意だった。
写真7=革細工教室で作業に集中する押富さん
教室開設の橋渡しをしたのは、押富さんの介助ボランティアを続けてきた恩師の石本馨さん。笹原さんも「押富さんの頑張る姿を見ているのが大好きだった」と話し、“遺産”となった「ごちゃまぜ運動会」にも参加を続けている。
【自助具】
手先の器用な押富さんだが、重症筋無力症のため物を握る力は極端に弱く、フォークやスプーンも落としてしまったりする。2019年に自作した「万能カフ」と呼ばれる自助具は、食事用だけでなく、木の棒を差し入れてクリップでボールペンを留め、字を書けるようにした。(写真8)
写真8=ボールペンで字が書けるように工夫した自作の万能カフ
ハンドメイドに打ち込む中で体の機能を高め、キーボード操作も楽にできるようになった押富さん。やがて市民活動のリーダーとして、イベントの企画書や広報資料も苦にせずに仕上げるようになった。人生の可能性は、作業療法とともに広がっていった。
写真9=革のヘルプマークも自作した
連載:人工呼吸のセラピスト