「私のトリセツ」で在宅ケアのチームワークづくり #人工呼吸のセラピスト

連載「人工呼吸のセラピスト」


人工呼吸のセラピスト「私のトリセツ」
写真3=私のトリセツ「受診に必要な診察券、保険証など」 

「受診に必要な診察券、保険証など」
(写真3)は、たつ江さんの外出中に押富さんが意識不明になった場合の備え。その次のファイルで、救急車の呼び方を具体的に解説している。そのほか、関係機関や家族の連絡先リスト、曜日ごとの支援サービスの種類と担当する事業所などのリストもある。

こうして自分の情報を取捨選択して分かりやすくまとめるのは、高度な作業だと思う。

作業療法士の発想と遊び心


初めて自宅を訪れるホームヘルパーや訪問看護師らにとっては「24時間の人工呼吸で、多少の会話ができて、車いすも使うけれど、容体は不安定」なんて相手をお世話する機会はめったにない。

その不安や緊張が「私のトリセツ」で、安心に変わるとともに「勉強させていただく」とリスペクトの気持ちがわいてくるはずだ。病状や障害の解説だけでなく、自分を中心にしたチームワークの質を高めていくことが、この資料の本当の狙い。まさに作業療法士の発想といえる。

たとえば、脳血管障害の後遺症で手のマヒがある女性が「退院したら、もう一度、料理をできるようになりたい」と希望したとする。

作業療法士は、手の機能を回復させるためにゲーム感覚で継続できるリハビリを考えたり、その患者に応じた自助具を提案したりする。不安な気持ちを取り除くために心理的に支えることもある。さらに、在宅復帰支援となれば、自宅を訪ねて台所の使い勝手を確認し、改善するほうがいい点や家族間の役割分担を提案したりすることもある。

その患者にとって「意味のある作業」ができるように、さまざまなアプローチから支援するのが作業療法士。押富さんには、在宅のチームワークを意識して資料を作るという作業が、楽しくてたまらなかった。

第1号の「私のトリセツ」を作っていた時のブログからも、わくわく感が伝わってくる。


まだ完成してないんですけど…

最後はやっぱり「故障かと思ったら」ですかね(笑)
たびたび故障するポンコツですからね~

熱が出たら…→病院へ連絡
酸素が下がったら…→まずは吸引、そして呼吸器を
動きが悪くなったら…→主治医へ連絡
元気がない…→ご飯はたべましたか?

みたいな…

あっ、サポートセンターというページもいるか!

病院とかの連絡先をまとめるページね。

やっぱりなんでも遊びゴコロって大事だな~


こうしたパソコンワークも、指の力を維持し、座る姿勢を保てるようにすることなどに役立つ作業療法だが、在宅復帰してからの押富さんは、リハビリを兼ねた手芸にも力を入れるようになった。
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文=安藤明夫

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