テクノロジー

2023.01.07 12:00

自然と人間が相互に高め合う 新文明装置「自然-社会共通資本」が導く未来


21年春に、米子が本拠地のJリーグ所属クラブ、ガイナーレ鳥取の「チュウブYAJINスタジアム」の土地の一部を協生農法の実証実験に提供してもらえることになった。


米子市「チュウブYAJINスタジアム」横の協生農園は、裸の砂地からわずか1年で160品種を超える作物が導入され、生き生きと実る(2022年10月撮影)。

時を前後して米子北斗中学校・高等学校を運営する翔英学園の理事長中ノ森寿昭から、中等教育に「協生農法」を取り入れたい、と連絡があった。


米子北斗中学校の授業での「協生農法」実践の様子。「五感を使い、観察の継続性があり、多様性の本質に近づく学びができる方法を探していたところ、舩橋氏の『協生農法』に出合った」と理事長の中ノ森寿昭は話す。米子市は宇沢弘文の出身地でもある。その縁から幾度となく現地に足を運び、大山の麓の自然と文化に触れるうち、舩橋の研究内容に関心を持つ関係者が集まるようになる。

そして、ヘルスケアを通して社会課題解決を目指すベンチャー「tenrai」が人口約3000人の町、鳥取県江府町と協力し、医療、教育、研究を横断する自然-社会共通資本の実装モデルを本格的にスタートさせることとなった。この活動では、協生農法を始めとする拡張生態系の実装、水資源を生かした体験学習や再生可能エネルギーの実証実験、生物多様性の向上や予防医療による地域全体の健康増進などが行われる。

「社会が生き生きとする──“幸せ”の条件というのはなかなか難しいですが──僕のなかでは、“生命性”といったもののひとつの軸でもあります。

単純に細胞がミトコンドリアで酸素を使ってATP(注・アデノシン三リン酸)を作り動いているという、顕微鏡下での生き生きとした姿というのもありますが、個人が社会のなかで生かされ、社会が個人の働きによって向上する良循環という、マクロ、もしくはメゾレベルの“社会の生命力”みたいなものと、京都大学の研究部門を機にさまざまな人たちとの対話を通して可視化していきたい“社会的共通資本”が備えるべき特質というのは、何らかの関係があるだろうなと思っています」

舩橋が挑むのは、世界が解けない難問だ。しかし、理論と実践の両輪は、着実に前進している。


舩橋がよく考え事をしているという、京都市左京区にある鴨川、荒神橋の飛び石。「経済原理でいうと橋をかけてしまったほうが早いのに、川と親しむためにあえて飛び石を残しているところがいいな、と思います」 写真=井上陽子


舩橋真俊◎ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。人間が積極的に関与することで自然生態系を拡張させる「拡張生態系」の理論構築と社会実装を行う。京都大学人と社会の未来研究院、社会的共通資本と未来寄付研究部門特定教授。SynecO代表取締役社長、一般社団法人シネコカルチャー代表理事。

※「協生農法」は桜自然塾の登録商標、「Synecoculture」はソニーグループの商標、または登録商標。

文=岩坪文子

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事