現在、アップストアでは、iPhoneやiPadで利用できるARアプリが1万4000以上登録されている。アップルは、2017年にAR Kitを発表した際、より没入感のある優れたAR体験を提供するためにヘッドセットが必要になる可能性を示唆していた。
しかし、アップルはメタ(旧フェイスブック)が推進するメタバース構想には賛同しておらず、VRに特化した仮想空間を支持したことはない。その代わりに、同社はデータや画像、ゲームなどをiPhoneやiPadのディスプレイに表示したり、MR/ARグラスを通して現実世界に重ね合わせたりする、最高水準のAR体験の提供を目指している。
メタバースの盛り上がりは、アップルにARグラスをリリースするよう圧力をかけるかもしれない。しかし、同社は優れたデザインや機能性、大量生産、サポート体制に関して細心の注意を払うため、万全の準備が整わない限り、ARグラスを市場に投入することはないだろう。
サプライチェーンに従事する筆者の知人によると、優れたARグラスを市場に投入する上では、解決しなければならない技術的課題がまだ多いという。ARグラスが市場に広く受け入れられるためには、スタイリッシュであることや軽量化を実現することに加え、バッテリー駆動時間が長いことが重要だ。
また、特殊な光学レンズや小型カメラ、レンズにARコンテンツを重ねて表示する小型ビデオスクリーンが必要になる。さらには、コンピューティングの大半をiPhoneに任せるために、スマートフォンとワイヤレス接続することが前提となる。
初代モデルは完璧でなくてもいい
しかし、アップルが2023年にMRグラスをリリースする可能性は残されている。その理由の1つとして、iPodやiPhone、iPad、そしてApple Watchですら、発売当初は完全なプロダクトではなかったことが挙げられる。初代iPodは革新的な製品だったが、本格的に普及したのは楽曲をCDから取り込まずにダウンロード可能にし、UIを改善した第3世代からだった。
初代iPhoneも1年目は100万台ほどしか売れなかった。iPhoneは、アップルがアップストアを開設してUIを改善し、耐久性が向上したディスプレイと最新のテクノロジーを提供した第3世代になってようやく軌道に乗ったのだった。
iPadも最初は普及に時間が掛かった。しかし、第3世代で専用アプリをローンチし、画面の高解像度化や軽量化がなされると普及が進み、今ではプレミアムタブレット市場を独占している。Apple Watchは、リリース当時は画期的な製品だったが、当初は売れ行きが芳しくなかった。その後、徐々に普及が進み、第3世代で市場に広く受け入れられるようになった。