──日本の伸びしろはどこか? その伸びしろを成長に変えるために、企業は何ができるのか?
出口治明(以下、出口):日本には伸びしろがたくさんあるが、なんといっても女性の活躍が重要だ。徹底したダイバーシティとインクルージョンの推進と女性管理職の登用だ。
組織は、多様な人を混ぜたほうが強くなることは、2019年のラグビーワールドカップの時に日本のチームが証明している。あれだけ勝ち進んで盛り上がったのは、混ざっていたからだ。「日本人だけ」にこだわっていたら、同じ結果にはならなかったはずだ。
APUも混ぜることをこれまでずっとやってきた。2023年4月には、「第2の開学」として、開学から初めてつくる新しい学部「サステイナビリティ観光学部」と既存に学部のカリキュラムが新しくなる。
2学部体制から3学部体制に替わるこれらの学部を引っ張っていくのは、3人の学部長たちで、3人のうち2人はフィリピンと中国出身の女性学部長、そしてもう1人は、1年の半分を研究活動として海外ですごす日本人の男性学部長だ。このようなダイバーシティチームでこれからのAPUを引っ張り、「世界を変える人材」を育てていく。
──著書では、企業の採用基準のアップデートが必要だと述べられていたが、どのようにアップデートすべきなのか?その課題とその解決法は?
出口:アップデートすべき点は2つ。
1つ目は、新卒の採用基準を、学生時代の成績重視にすると公表すること。成績がいいということは、与えられた課題に優れたパフォーマンスを発揮したということだ。そういった素質は、社会人になっても変わらない。
一方で、コロナ禍ですべてがオンラインに切り替わり、外に出ることができなかったために、機会が得られず、学生が就職面接で「学生時代に力を入れたこと」について語れなくて困っているときいた。「ガクチカ」と呼ばれていて、主にボランティア活動、留学、インターンシップやアルバイトの経験を語るそうだが、就職活動中の学生が、いま一生懸命その経験を得ようとしているという。
そもそも、大学在学中は、勉強することにいちばん力を入れるべきだ。産業界が未だに高度成長期に求められていた人材モデルを維持していて、「素直さ、我慢強さ、協調性」などを見て、「わが社のカラーに合うかどうか」などと同質性を確認したりするから、学生はますます勉強しなくなる。
世界は大きく変わっているのに、日本社会だけは高度成長期状態のままガラパゴス化してしまっている。「優秀な人材がいない」と嘆く前に、採用基準を見直すべきである。
2つ目は、国籍・性別・年齢フリーの採用基準である。前にも述べたが、多様な人が集まる組織は強くなり、イノベーションも生まれやすい。同質な人たちばかりが集まって、「あーでもない、こーでもない」といったところで、結局は同じアイデアしか生まれてこないのだ。