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2022.12.19 08:10

定年退職者の希望の星! 半導体検査で台所から世界一に

ジュゼッペ・クリッパ

スマホやEV(電気自動車)の普及でチップや半導体といった精密部品の需要が激増している。一方で、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻、米中対立による半導体の深刻な供給不足が浮き彫りになって、各国の政策の焦点になるなど、その重要性が再認識されている。ここでは、半導体の「検査」という一見地味ながら品質管理に不可欠な工程で急成長中の伊プローブカード開発・製造企業をご紹介しよう。


ジュゼッペ・クリッパは、1995年にフランス・イタリア系半導体メーカーのSTマイクロエレクトロニクス(STM)を定年退職し、退職金を受け取った。60歳で35年にわたるキャリアに終止符を打った彼は、引退するどころか自分の会社を立ち上げるチャンスに飛び付いた。5、6年かけて研究したアイデアを発展させ、ミラノ郊外の小さな町でテクノプローブを立ち上げたのだ。

製造するのはプローブカード。無数の針が並ぶ小さな円盤で、マイクロチップに取り付けて性能検査を行うための装置だ。

「彼は非常に発明家気質だったのです」

テクノプローブの現在の最高経営責任者(CEO)でクリッパの甥でもあるステファノ・フェリーチは、今年3月、イタリア北部にある同社の本社で受けたビデオ取材でそう語った。


ステファノ・フェリーチ

「当時、プローブカードを修理するには米国に送らなければならなかったうえに、2週間かかりました。そこで彼は、自宅のキッチンでプローブカードをつくるプロセスを考え出したのです」(フェリーチ)

テクノプローブは、最初の15年間でこそ主にクリッパの元雇用主に製品を売っていたが、創業から27年がたち、いまやプローブカードでは世界の二大メーカーのひとつとなった。アップルやクアルコム、サムスン、エヌビディアといった大手一流テック企業各社に加え、AMDやインテル、TSMCなどの半導体メーカーにもプローブカードを供給している。

最近の半導体は非常に複雑になっており、チップの欠陥の有無を調べるには、チップごとに専用のプローブカードが必要だ。検査を受け、見つかった問題がすべて修正されてはじめて、チップは問題なく大量生産できる状態になり、最終的に最新のスマートフォンやノートパソコン、電気自動車に搭載される。プローブカードには、最大で5万本もの金属ピンが取り付けられており、それぞれの間隔は約600分の1インチ(0.04ミリメートル)だ。

「私はよく、プローブカードを鍼(はり)治療に例えます」

シティグループのアナリストで半導体とプローブカードを担当するアマンダ・スカルナティは語る。

「何本もの極小さい、細い針をチップに打ち、すべて正常に機能しているかを確認するわけですから」

昨年、テクノプローブはついに、最大の競合であるカリフォルニア州リバモアのフォームファクターを追い抜いた。2021年に4億4600万ドルの収益と1億3600万ドルの純利益を計上し、フォームファクターのプローブカード事業が記録した売上高4億3600万ドルを上回ったのだ。

テクノプローブは現在、クリッパの甥と息子がそれぞれCEOと会長として経営を担う。近年の業績の伸びに乗じて今年2月にはイタリア証券取引所のなかでも中小企業を対象とするユーロネクスト・グロース・ミラノ証券取引所で株式を公開した。

このIPO(新規株式公開)の結果、17年にCEOを退任した現在87歳のクリッパと彼の家族は、75%の持ち株のおかげで保有資産額40億ドル弱のイタリア有数の資産家となった。年齢が障害とはならないことを、身をもって示したクリッパは、高級集合住宅開発会社を率いるマービー・フィンガーや格安航空会社フロンティア航空、未公開株投資会社インディゴ・パートナーズを率いるウィリアム・フランキなどと並び、80歳以上で今年新たにビリオネアとなった8人のうちのひとりとなった。
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文=ジャコモ・トニーニ 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.099 2022年11月号(2022/9/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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