テクノプローブは瞬く間に成長し、01年にはフランスに、04年にはシンガポールに事業を拡大。自身の米カリフォルニア州への出張から40年後の07年、クリッパは甥のフェリーチを同州に送り、テクノプローブ初の米国オフィスをサンノゼに開設した。同じ年、同社は社内でより小型で先進的なプローブカードの開発に乗り出した。
テクノプローブオフィス
STMは、長年にわたりテクノプローブの唯一の顧客だった。それ以外の顧客を獲得するようになったのは、10年に台湾とフィリピンに新たな拠点を設けたのがきっかけだ。アジア有数の半導体製造ファウンドリ各社と取引するようになり、本格的市場参入を果たしたのだ。
「17年には米国でも、それまでの努力が実を結ぶようになっていました」(フェリーチ)
19年には市場シェア拡大に向けた1億ドルの投資計画に着手。4000万ドルでカリフォルニア州バンナイズのマイクロファブリカを買収した。それはプローブ用の部品を3D印刷で製造する会社だった。
「彼らの技術と統合したことで、競合との差を広げることができました」(フェリーチ)
この買収でテクノプローブは、ちょうどチップが小型化し、複雑化していくタイミングでより小型で効率的なプローブカードを製造できるようになった。ムーアの法則によれば、集積回路の部品数は約2年ごとに2倍になる。現在開発中の各種テクノロジーも、テクノプローブの明るい未来を予見させる。
半導体の次なるフロンティアはチップレットだ。より小さなチップを積み重ねてより高速かつ強力なユニットを構築する技術で、最新のスマートフォンやコンピュータなどに搭載される。今年3月、世界のテック企業大手各社AMD、グーグル、インテル、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)、マイクロソフト、クアルコム、サムスン、TSMCなどが、次世代ガジェット向けのチップレット技術を標準化するためのコンソーシアムを立ち上げた。
これは、テクノプローブやその最大の競合であるフォームファクターが、どちらも顧客の増大するニーズに対応すべく生産能力を強化することを意味する。一方で、従来はフォームファクターの取引先だったインテルの市場シェアをテクノプローブが獲得し、両社は顧客を共有するようになっている。大手半導体メーカーはどこも、より安全で多様な供給体制を確保しておきたいのだ。フォームファクターのマイク・スレッサーCEOは語る。
「小さな業界ですから、クリッパ家のことはよく知っています。彼らが家族経営の非公開企業として成し遂げてきたことは、見事なものだと思います」
フェリーチもフォームファクターへの称賛を惜しまず、プローブカード産業が実質的に両社による「複占」状態であることを認める。両社が前進を続けられるだけの需要は十二分にある。
「自動車には、いまやコンピュータやグラフィックカードが搭載されており、こうしたチップにも検査が必要です。つまりそれは、私たちの取引が増えるということなのです」(フェリーチ)
テクノプローブ◎1993年に、ジュゼッペ・クリッパの自宅でスタート。クリッパがSTMを定年退職した95年に正式に会社化された。マイクロチップの性能試験に使用するプローブカードを製造。2000年代以降、フランスやシンガポール、台湾、フィリピンにも事業を拡大。米国のフォームファクターを抜いて現在世界シェアトップ。
ジュゼッペ・クリッパ◎1935年、イタリア生まれ。ベルガモの工業高校卒業後、エンジニアリング企業ブレーダに就職。その後、半導体メーカーSGSに転職。62年にシリコンバレーで技術を学び、翌年イタリアで欧州初のシリコントランジスタ製造ラインの立ち上げに貢献した。STMとなった会社を95年に退職、テクノプローブを創業した。
ステファノ・フェリーチ◎ジュゼッペ・クリッパの甥で、現在、テクノプルーブの最高経営責任者(CEO)を務める。ミラノ工科大学で電気工学と通信の学位を取得。1999年にテクノプローブに入社。研究開発に携わり、米国や日本、中国、韓国の現地法人の取締役を務める。2017年、クリッパがCEOを退任した際に後を引き継いだ。