今回の「Dr.コトー診療所」が画期的なのは、16年前のテレビドラマに出演していたキャストが、ほとんど全員、この新たな作品で顔を揃えているということだ。もちろん監督のやりたかったという、この島の時の流れを描くためには、それはもう必須の条件だったようにも思える。
志木那島の漁師、原剛利を演じるのは時任三郎(C)山田貴敏(C)2022映画 「Dr.コトー診療所」製作委員会
16年と言えば、生まれた赤ん坊が高校生になってしまう年月だ。実際、新たな登場人物として出演者に加わった高橋海人(King & Prince)などは、「Dr.コトー診療所」のドラマが始まった2003年には、まだ4歳だったという。
またドラマシリーズに子役で登場していた富岡涼は、すでに演じる仕事を辞めていたが、中江監督の熱いオファーを受けて、物語の鍵を握る重要な役柄で復帰している。とにかく今回の映画は、16年という時の流れがいろいろな側面から描かれていく、奇跡のような作品でもあるのだ。
コトーの妻、彩佳の父親を演じる小林薫(C)山田貴敏(C)2022映画 「Dr.コトー診療所」製作委員会
大病院の御曹司・織田が登場
本土からは遥か離れた孤島の志木那島。19年前に東京からやってきた「コトー」こと五島健助(吉岡秀隆)は、島のたった1人の医師として、島民たちの命と健康を守り、厚い信頼を得ていた。
そのコトーの診療所に、織田判斗(高橋海人)という青年医師が研修に訪れる。大病院の御曹司である織田は、コトーと医療のあり方について意見をたたかわせるが、簡易な診療所の設備で難しい手術までこなすコトーを見て驚きも覚える。
物語の前半は、このコトーと織田の葛藤が中心に描かれる。そのなかで現代の医療が直面しているさまざまな問題が炙り出されていく。この設定が実に見事だ。織田の登場で、16年間続いてきた島の日常に新たな一石が投じられていくとともに、島民たちの現在の姿までもくっきりと浮かび上がらせている。
もう1人の「訪問者」として、医師を目指して東京の大学の医学部に進んだ原剛洋(富岡涼)も、突然、島に戻ってくる。将来コトーを継ぐ医師として島の人たちから嘱望されていた剛洋だったが、どうやら人には言えぬ事情を抱えており、彼を追って本土から警察官も渡ってくる。
志木那島でも、日本の地域が抱える問題である過疎高齢化が進んでいる。そのため財政難から、医療機関の統合の話が持ち上がっており、コトーには島を出て拠点病院で働かないかという誘いがもたらされていた。
数年前、島に住む看護師の星野彩佳(柴咲コウ)と結婚し、もうすぐ新たな命も授かることになっていたコトーだったが、実は彼自身が、自らの運命をも左右する重大な事態に直面していたのだった……。
コトーの妻、彩佳の母親は朝加真由美が演じる(C)山田貴敏(C)2022映画 「Dr.コトー診療所」製作委員会