2つの愛の物語を「生まれ変わり」でつなぐ 恋愛映画「月の満ち欠け」

「月の満ち欠け」(C)2022「月の満ち欠け」製作委員会

「人は命を繰り返すの。月がいちど欠けてもまた満ちるように、生まれ変わるの。ただほとんどの人がそれを覚えていないだけ。充たされなかった強い思いをひきずっている人だけが、それを覚えているの」

登場人物の1人である小山内瑠璃が、親友の緑坂ゆいに高校の美術室で静かに語りかけるセリフだ。その内容からもわかるように、映画「月の満ち欠け」は「生まれ変わり」をテーマにした物語となっている。

原作は、2017年に第157回直木賞を受賞した佐藤正午の小説。過去に映像化された著者の「ジャンプ」(2000年)や「身の上話」(2009年)と同様の恋愛小説で、多数の人物が登場して描かれる群像劇となっている。

映画では、小山内瑠璃の父親である小山内堅(つよし)が主人公として設定されており、彼が聞かされる過去の話や自らが回想する昔のエピソードなどによって、数奇な「生まれ変わり」の物語が描かれていく。


月を見上げる小山内堅と母娘 (C)2022「月の満ち欠け」製作委員会

「生まれ変わり」の発端をリアルに再現


2007年12月、故郷・八戸の水産会社で働く小山内堅(大泉洋)は、8年前に妻の梢(柴咲コウ)と娘の瑠璃(菊池日菜子)を交通事故で亡くし、失意の日々を送っていた。そんな折、瑠璃の親友であった緑坂ゆい(伊藤沙莉)から電話を受ける。ゆいの用件は「瑠璃が高校時代に描いていた肖像画を探してほしい」というものだった。


小山内堅と緑坂ゆい(右)(C)2022「月の満ち欠け」製作委員会

小山内が古い荷物から探し出した絵は1人の青年の肖像画。絵を携えて上京した小山内は、ホテルのロビーラウンジで、ゆいと彼女の娘である緑坂るり(小山紗愛)に会う。小山内は、どこか大人びた雰囲気のるりが気になりながらも、ゆいと話すうちに記憶は1980年12月の梢との結婚式に飛ぶ。

結婚式の当日はジョン・レノンの「ウーマン」が流れていた。幸せの絶頂にいた小山内と梢の間に、1年後、娘が誕生する。「瑠璃」と名付けられるが、それは母の梢が夢の中で生まれてくる娘から「瑠璃という名前にしてほしい」と頼まれたというのだ。

1988年、瑠璃は原因不明の高熱を出す。熱が引くと彼女に異変が現れ、英語の歌(ヨーコ・オノの「Remember Love」)」を口ずさんだり、デュポンのライターを言い当てたり、いままでなかった髪をかきあげる仕草をしたりするようになる。

そしてある日、小学生の瑠璃は、1人で電車に乗って高田馬場のレコード店へと向かう。娘を迎えに来た小山内に、店員は瑠璃は「アンナ・カレーニナ」のビデオを観ていたと証言する。そして、小山内堅の記憶は1999年の交通事故で暗転する。
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文=稲垣伸寿

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