2つの愛の物語を「生まれ変わり」でつなぐ 恋愛映画「月の満ち欠け」

「月の満ち欠け」(C)2022「月の満ち欠け」製作委員会


2000年、妻と娘の死をきっかけに東京から八戸に転居していた小山内のもとに、三角哲彦(目黒蓮)という青年が訪れる。三角は、小山内の妻と娘が事故に遭った日、彼女たちは自分に会いに来ようとしていたと語る。しかも、瑠璃は、かつて自分が愛した正木瑠璃(有村架純)という女性の生まれ変わりだったのではないか、と告げるのだった。


「生まれ変わり」の発端となる正木瑠璃 (C)2022「月の満ち欠け」製作委員会

映画「月の満ち欠け」では、小山内堅と母娘、三角哲彦と正木瑠璃、ふたつの愛の物語が語られる。かたや交通事故によって幸せな暮らしが奪われた家族の肖像、かたや夫のいる女性との許されざる恋愛模様。「生まれ変わり」という超常的な現象を通じて2つの悲劇が絡み合っていく。

非現実な設定でありながら、作品全体を通してリアリスティックな演出がなされているため、2つの物語を結びつけていく「生まれ変わり」が、もしかしたら実際に起こるかもしれないと思わせる。そのあたりは、ファンタジーな色合いを極力抑えて、人間ドラマに注力して丁寧に物語を紡いでいった結果かもしれない。

そのこだわりが顕著に現れているのは、1980年代を舞台にした三角哲彦と正木瑠璃の登場場面においてだ。劇中では2人が出会う約40年前の東京・高田馬場の駅前が完璧に再現されている。もちろんCGも駆使されているのだろうが、実際に茨城県に当時を模した巨大なオープンセットをつくって撮影したとのことだ。その再現度は見事というしかない。


三角哲彦(左)は正木瑠璃と出会う (C)2022「月の満ち欠け」製作委員会

かつて筆者にとってもこの時代このあたりは馴染みの場所だった。駅前の店の位置やロゴなどが当時そのままに再現されていたので、かなり驚かされた。他にも三角がアルバイトとして働く店に飾られていたポスターや並べられていたレコード、2人が再会する映画館の看板など、リアルにこだわった設えがされている。

そのタイムスリップしたような空間で展開される三角と瑠璃の運命の恋は、不思議な狂おしさを感じさせる。とりわけ三角が当時の8ミリカメラで瑠璃を撮影する映像は強く印象に残る。「生まれ変わり」の発端となるだけに、2人の恋愛の鮮烈さが物語にドライブをかけている。
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文=稲垣伸寿

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