2つの愛の物語を「生まれ変わり」でつなぐ 恋愛映画「月の満ち欠け」

「月の満ち欠け」(C)2022「月の満ち欠け」製作委員会


大泉洋はシリアスな演技に挑戦


主人公の小山内堅を演じる大泉洋の演技も新鮮だ。これまでどちらかというとコミカルな要素が多い人物を演じてきた大泉だが、この「月の満ち欠け」では、にわかには「生まれ変わり」が信じられないという厄介な役柄を、陰影を生かしながらシリアスに演じている。


シリアスな演技を見せた小山内堅役の大泉洋 (C)2022「月の満ち欠け」製作委員会 「月の満ち欠け」は12月2日(金)より全国公開

また劇中では回想シーンも多く、20代から50代まで4通りの年齢を演じることになった大泉だったが、その演技には俳優としての円熟を感じさせるものがある。撮影では、若い時代から順番に撮られていったようで、4つの時代を見事に演じ分けた大泉は次のように語っている。

「クランクインして数日は楽しいシーンの撮影でした。奥さんと娘との幸せな生活を前半に撮影していたので。ただその後の展開が辛いんです。でも前半と後半で、幸せだった頃、不幸になってからというのをきっちり分けていただいたので、ある意味やりやすかったです。毎日1シーン1シーンを、大事に積み重ねていくという現場でした」

この時代順に撮影していくという手法は、俳優たちに役柄をリアルに演じてもらうのにはかなり効果的だったかもしれない。映画は、この順撮り方式で撮影されたシーンを回想形式で再構成しているが、少し複雑な「生まれ変わり」のストーリーをわかりやすく組み立て直している。またビデオカメラを使った映画オリジナルの設定などもあり、「恋愛映画」としての要素も高められている。

実は小説では、正木瑠璃の「生まれ変わり」は映画より1つ多くなっている。そのため刊行時から愛読していた筆者としては、やや物足りなさを感じたりもする。なので、より濃密な「生まれ変わり」の物語を楽しみたいという方には、佐藤正午の原作「月の満ち欠け」(岩波文庫的)を手に取ることをお勧めしたい。

連載 : シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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