PTAはチャレンジの場にも
では、この「麹中ベンチャーズ」はいったいどのようにして生まれたのか。
きっかけは「スタートアップ企業という新しい働き方を知ってもらいたい」「学校での実現が難しい、ビジネスに繋がる教育支援イベントを実施したい」といった声が、特にPTAの父親を中心に挙がったことだという。
2022年から実施に動き出した理由を、麹町中学校の中間貴恵PTA会長は「前任の会長と副会長から引き継ぐ際に『麹町中はいろいろ先進的なことをやってきたんだから、なんでもやってみるベき』と言われた」からだと言う。
その言葉に後押しされ、前述のようなことを考えている保護者が提案して、運営委員会(総会に次ぐPTAの議決機関で年に6回開催)で採択された場合のみ企画を実施するということを決定した。2022年6月の第1回運営委員会では、5つの企画が提出されたという。
例を挙げれば
・中学生の子どもと親のコミュニケーション講座
・パソコンに詳しい親が学校から普及されているタブレットの有効な使い道を子どもたちに教える講座
・シリコンバレーで働く人たちに仕事を語ってもらうイベント
・麹町中学のグッズを販売
といった提案だった。
実は、麹中ベンチャーズは、その保護者からの提案の1つだったのだ。発案者の銕川陽介さんは、PTA発で企画を行うメリットを次のように話す。
「PTAには、毎年継続している業務をこなしていかなければいけないですが、何か企画を実施する義務はありません。義務はない、でもPTAには多様な保護者が集まっています。だからこそ、親たちの自由な発想で、小さい規模でもアイデアを実験的にチャレンジできるちょうど良い場だと思います。ある意味『麹中ベンチャーズ』は500人ほどのユーザー(生徒)が存在する市場をターゲットにしたスタートアップ企業と言えるかもしれません(笑)」
前出のPTAの中間会長の考えはこうだ。
「ふだん友達同士で、環境問題や睡眠の課題を話す機会ってなかなかないですよね。仲間内で話す内容って大体決まっていて、いまだときっとそれぞれの『推し』の話をしたりする。
でも何気なく社会に対して課題意識を抱いている子もいます。その想いをためらいなく言えて、真剣に向き合ってくれる人がいる場所をつくれたのはよかったのではないかと思います」
ただ今後に課題もあるという。それはこの取り組みを持続できるかどうかということだ。
麹中ベンチャーズに参加を希望する生徒がいても、有志の保護者や企画に前向きな会長が来年以降も現れるとは限らない。逆もまたしかりで、生徒不在で大人だけが盛り上がるのでは本末転倒だ。
またPTAでは、毎年継続しているイベントや業務が最も重要であるため、企画とバランスよく運営する必要がある。
生徒たちの熱量と保護者たちの持続する志。この両輪がうまくかみ合うことが今後のキーポイントになりそうだ。