それが、PTAが主導する起業家教育の「麹中ベンチャーズ」だ。
スタートアップ支援を手掛ける「ガイアックス」が提供している「起業ゼミ」を、生徒たちが受講する形で、2022年8月から取り組みをスタートさせている。
起業ゼミでは計3回の講義(2回補講も実施)で事業を立案することを目指し、PTAやガイアックスの担当者らとアイデアの発案やビジネス用語の学習、企画のブラッシュアップなどを行ってきた。
10月15日には、その集大成ともなるピッチ大会が開催され、最優秀賞の生徒にはガイアックスから200万円と法人設立費用が贈呈されるという、一般の起業家たちに負けず劣らずのプレゼンテーションが繰り広げられた。
希望者には「継続的な起業支援」も
ピッチ大会に参加した9人の生徒がプレゼンしたビジネスアイデアは実に多種多様だ。
例えば、眠れない人にタイプ別診断を行い睡眠用のアロマオイルを提供する、スーパーに出かけることができない高齢者に代わりネットで注文を受けて食材を届ける、スポーツを学びたい人と指導者をマッチングして評価によって指導者の給料を決めるなどのアイデアが飛び出した。また、いま増えている「サブスクリプション」を取り入れる生徒も複数いた。
プレゼンの持ち時間は3分。その後に質疑応答が行われた。大会前半では、プレゼンを控えた生徒たちの表情は緊張感を帯びていたが、大会が進むにつれ、発表を終えた生徒たちが、今度は次々と質問者側にまわり始めた。すると徐々に質問の量も増え始め、大会のボルテージも上がってきた。保護者やガイアックスの担当者、そして生徒たちから投げかけられる鋭い問いに、発表者がタジタジとなってしまう一幕もあった。
発表するアイデアも新鮮で、会場からの質問にも淀みなく回答する生徒もいたが、残念ながら、最終的に賞金を得たのは1人もいなかった。ただ希望者には「継続的な起業支援」が行われることになった。
生徒の1人は今回の「麹中ベンチャーズ」の感想を次のように話す。
「最初は、3回で起業するって結構キツいなと思ったのですが、やり始めると意外と可能ですし、自分の性格にも合っているような気がしました。200万円を逃したのは痛いなという気持ちもあります。もし『ガイアックスさんから起業の資金を出してもらいました』と言えることになっていたら、信頼性の面や人から興味を持ってもらううえでの弾みにもなったと思うので」
また、他の生徒は次のように悔しさを滲ませた。
「親に土下座までして起業の資金を出してもらうとかは、したくないです。自分のアイデアが誰かに認められて、自分の手で掴み取ったという実績が欲しかった。もっとよくできたんじゃないかと反省させられました」