日本では、優れたサイエンスでも、それを製品として活かせる市場性ある用途に結びつかないことが多いと言われています。米国でも、数あるスタートアップからわずかな成功企業が出てくることを期待して投資するのには限界がある、と言われています。
初期に可能性を検討し、ラボでの仮説検証を経て、機会の特定ができたらシード投資で会社化する。このステップを踏んで育成するプロセスを、フラッグシップ社はモデルナに適用したわけです。
日本企業の事例も
日本の研究者と大企業が関係したベンチャークリエーションもあります。それが、がん治療薬を開発する「センチュリー・セラピューティクス」の事例です。
同社は2018年に米国VC「ヴァーサント」が、がんに対する新たな細胞治療薬を作ることを目的に設立しました。技術面では、科学創業者として東京大学からスタンフォード大学に移った中内啓光氏と、ハーバード大学のマルセラ・マウス氏が参画。さらに、創業後すぐに富士フイルムの子会社「FCDI」と提携し、iPS細胞技術と免疫細胞技術を得ています。
FCDIは、センチュリー製品の主要な製造者としての契約も獲得しており、富士フイルムの再生医療の基盤技術を活かす提携となっています。
その結果、センチュリーは創業初期から、基礎細胞生物学から製造技術までを保有し、細胞加工技術から製造技術の開発体制を一貫して社内で構築しています。
2019年にドイツの製薬大手バイエル(「バファリン」でも知られる)が2億1500万ドル、ヴァーサントとFCDIが3500万ドルを投資。さらに2021年に1億6000万ドルを調達しました。
センチュリーは、2021年に11億ドル(約1500億円)の企業価値で米NASDAQに上場。
なお、IPO直後の持分は、ヴァーサント24.7%、バイエル21.8%、FCDI12.7%となり、FCDIは戦略的な意義とともにキャピタルゲインも得ました。
またセンチュリーは2022年に、「ブリストルマイヤーズスクイブ」が1億5000万ドルを支払う共同研究契約を締結し、これからが楽しみな状況です。
このように、当初から大企業のニーズや視点を組み込んで、共同創業するベンチャークリエイションのアプローチもあります。サイエンスの可能性を仮説検証するだけでなく、戦略的パートナーを早期に連携させ、プロデューサー的な価値を発揮しています。
いずれにせよ、日本の研究者や企業の価値があれば、巻き込むのは自然な流れです。しかし「日本でこうした認識をしている人はわずか」と小柳教授は指摘します。
そのため小柳教授は日本からグローバルへのベンチャークリエイション構築を目論んでいます。
2018年から医療系アクセラレーション・プログラムを運営している小柳教授は、日本のサイエンスを種にグローバル市場で活躍するスタートアップの育成に、
1. 実験を伴う事業評価
2. プロによる開発計画評価
3. プロによる初期の経営支援
のような支援が必要と考え、京都大学病院や米国の提携先を巻き込んで、取り組んでいます。
グローバルの中でも、特に米国とつながることはエコシステムの観点から重要です。そして、米国でスタートアップを育成する試みを期待します。