例えば前者では、男性役員に出席者の大半を女性が占める会議へ出席してもらった。するとその男性役員は、発言のしにくさを痛感。会議でダイバーシティを確保することの重要性を理解し、女性役員を増やすべく対策の検討をはじめた。
後者では、子供のいない社員に子育て中の社員宅へインターンに入ってもらい、夕方、子供を保育園に迎えにいくところから寝かしつけまでを体験してもらう取り組みなどを実施した。そこで仕事と育児の両立の大変さを知った社員は、子育て支援の制度や風土作りに理解を示すようになった。
経験を共有された社員は新たな視点で物事を見られるようになるため、D&Iへの理解が進む。そしてマイノリティである社員も、自らの声が組織運営に反映されることによってエンゲージメントが高まり、パフォーマンスが向上するケースも多い。
欧米と日本のギャップに、ヒントあり
「現場から上がった声をどう制度に反映していいか分からない」という担当者の悩みも、よく聞こえてくる。書籍などでその手法を学ぶのも悪くはないが、個人的に勧めたいのは海外事例のつまみ食いだ。
例えばLGBTQの問題。日本は欧米と比較して遅れているため、私は随時、欧米企業がどんな制度を構築・運用しているのかをチェックしている。法律や文化などの環境が違うためそのまま真似することはできないが、欧米企業の先進的な取り組みを部分的に自社や顧客企業に取り入れてきた。
採用コンサルティング企業で人材開発をしていた時代には、欧米のある企業を参考に、社員が家事・育児をアウトソースする費用の補助制度を導入。当時、そうした外注はまだ珍しかったが、それによって社員が自己研鑽や休息をする時間を捻出でき、生産性が向上した。
また、欧米企業では当然のように行なわれてきた、妊娠などによる女性の体調変化や健康課題について学ぶ講習会も実施した。
逆風が吹いたらまずはロジカルに
日本企業のD&Iは発展途上で、推進していく担当者には時折強い逆風が吹くこともあるだろう。そんな時は、自分たちの取り組みが何のため、誰のためのものかを見つめ直し、原点に立ち返ってほしい。
その制度が自社のどれくらいの社員や顧客、株主に影響を与えるのか、実現できなかった場合のリスクはどれくらいか、まずはロジカルに考える。
そして、勇気を出して声を上げた社員がいるのであれば、その気持ちに応えられるのは自分たちD&I担当であり、それをいずれ自社の成長につなげるという目的を持って歩んでいくことが、成功へのカギとなるだろう。