自然に没入し、自分を解放する 辺境へのクルーズ旅という選択

ポナン社のタヒチ周遊クルーズにて


フィットネスセンターでは、30〜50代の経営者や医師たちが日々トレーニングに勤しんでいた。

オーストラリア人のソフトウェア会社CEOは、「世界中に部下がいるけれど、緊急用に電話だけオンにして、ここでは完全にオフモード。妻や子供と過ごす時間に専念したい」と、乗船時と見違えるほど穏やかな表情で語っていた。



クルーズでは、同船した多様な乗客との社交も楽しみの一つだ。孫8人を含む3世代、総勢15人のオーストラリア人ファミリーは、祖父の提案で、科学者、医師、マーケティングマネジャー、農業経営者などそれぞれ忙しいメンバーが集ったのだという。

ニュージーランド人の夫妻は、結婚30周年と夫人の70歳を祝いに乗船。「携帯はフライトモードでメッセージは全てシャットアウト。日常を忘れて楽しんでいるわ」と夫人。他にも80歳は超えていると思われる老夫婦たちがバンバンと海に入り、荒波を潜りながら泳ぐ姿に、自分もこんな風にパワフルに老いたいものだと思った。

スタッフを含め、さまざまな国籍の人と一定期を共にするクルーズは、子供を国際的な環境に慣らす機会にもいいかもしれない。



リピート率は驚異の20%


旅は、普段なかなか意識することのない歴史や情勢にも目を向けてくれる。ポリネシアは19世紀半ばにフランスの海外領土となった。観光業の推進や経済支援の恩恵がある一方で、核実験による珊瑚礁の破壊や、島民のプライドの消失が問題となっている。

そんな中でも、ポリネシアの人々は実直で暖かく、気配り上手でユーモラス。コロナによる打撃をガイドに聞くと、生命力に溢れた力強い言葉が返ってきた。

「俺らは喜んださ。やっと島が俺たちだけのものになったって。俺たちには魚がある。フルーツがある。大事なのは金じゃない。自由と生きる力だ。金がなくても魚を食って歌っていれば幸せさ」
 
植民地教育についても、「植民地? 独立? 俺自身が独立した人間だから関係ないさ」と潔い。「俺らが子供の頃は、魚の獲り方やさばき方、調理の仕方を祖父や親から実地で習った。彼らが本物の先生さ」という。

クルーズ船のスタッフも多彩で、ほぼ全員が二刀流。夜のショーに出演していたと思いきや、翌朝には送迎のアテンドをし、ある日には文化体験の講師を務めていた。ココナッツを飲みたいといえば、5mほどの棒で果敢にココナッツを落とし、豪快に切って差し出してくれた。



そんなスタッフのサービスもあり、ポリネシア地域の専門船でありながら「ポール・ゴーギャン」のリピート率は20%にのぼり、最多で22回目の乗船を数える客もいるそうだ。
 
帰国して2カ月が経つが、あの透明な海に浄化されたのか、心も身体も綿のように軽い。頭の中もメールボックスのゴミ箱を空にした時のような、すっきりした感覚が続いている。ここまで深い心身のリセットには、やはりある程度の距離と時間が必要なのかもしれない。



コロナ禍で運休になっている成田ーパペーテ間の直行便は、2023年の秋に再開予定。それまではハワイやオークランド経由でのアクセエスとなる。

トキは刻々と過ぎていく。一度きりの人生、思い切って時間をとって旅立つのもいかがだろう。

文=山田理絵

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