よりディープな体験をしたい人には、毎日3つほどの有料アクティビティが用意されている。私は、「自然水族館」「黒真珠とスノーケル」「海底散歩」を一日おきに予約。ウェールウォッチングは満席で参加できなかったが、朝食中に二頭の鯨が対で泳ぐ姿に遭遇できた。
ボラボラの「自然水族館」では、3つのスノーケルスポットを訪れた。深さ7mの水面に顔を沈めると、色とりどりの大小の魚たちが寄ってきては去り、珊瑚礁の穴からウナギが顔を出しては恥ずかしそうに戻っていく。次のポイントでは、菱形のえいが海底に美しいフォーメーションで群れを成していた。
極めつきは黄色いサメとの遊泳。「まだ死にたくないんだけど」とガイドに言うと、「ハハハ、大丈夫。俺の方がずっと危険さ」と大笑いされてしまった。
ポリネシアでは、サメには一族の先祖の魂が宿るとされ、家族を見守る存在として大切にされている。海中では、病気や老いた魚を食べて、海の生態系の均衡を保つ重要な役割を担っているが、乱獲などにより絶滅の危惧に瀕している種も多く、ポリネシア政府は2006年から法律でサメの保護に当たっている。思わぬところで社会課題を目の当たりにすることになった。
アクティビティのハイライトは、海底散歩だ。酸素ヘルメットを着用して10mの海底を歩く。妊娠中のエイがまとわりついてきたり、色とりどりの魚たちが寄ってくる、この上なく幸せな時間だった。
ダイビングより気楽に、海中の生態に加われる。これまで世界のさまざまなダイビングスポットで潜ってきたというアメリカ人男性も、ここがベストだと興奮していた。
日に日に海水の透明度が増し、水面のグラデーションは鮮やかに。ダーウィンによれば、水位が年間5〜11mm上昇し、何年か後にはこのあたりの美しいバリアリーフは水没してしまうとされる。
大海原と島々に囲まれていると、「この景色を残したい、そのためにできることをしたい」という感情が沸き起こってくる。情報として見聞きするより、ずっとダイレクトに私たちの意識に働きかけるのだ。せめて日々の食事や水の無駄をより省こうと、身近な行動意識へと繋がっていく。
乗客との交流も楽しみのひとつ
心配していた船の揺れも全く問題なかった。船内には医師と看護師が常駐し、エクスカージョンにも同行して、滞在中の怪我や病気に対応。緊急時用にあらかじめパペーテの救急病院と搬送の連携をしているのも、特にコロナ禍では大きな安心材料だ。
船上生活の閉塞感も気がかりだったが、レストランやバーも3カ所ずつあるほか、舞台のある大きなホール、デッキやロビーなど、ゆったりできるスペースがあちらこちらにある。