「日本の医療をリデザインする」ことで意気投合した二人。似たもの同士が交わることで生まれたシナジーは、薬局業界を大きく揺れ動かしている。
「薬局業界は動線が変わってこなかった。そこに起きる変化は、どんなものであれ私たちに追い風になる」
薬局DXを推進するカケハシ共同創業者のひとり、中尾豊は自社を取り巻く環境についてこう語った。
一例をあげよう。2022年4月、日本でリフィル処方箋が解禁された。リフィル処方箋とは、医師の診察なしに最大3回まで繰り返し利用できる処方箋。ただ、有効期限は次回調剤予定日の前後7日間。それを過ぎると医師の診察が必要だ。
従来なら薬局は患者が処方箋をもってくるのを待っていればよかった。しかし、診察不要で患者が薬をもらうことを忘れやすい状況になると、安全性の確認を前提に薬局からアプローチして治療継続を促す役割が求められる。
「カケハシの『Pocket Musubi』は単なるおくすり手帳を超えて患者さんをフォローするツール。私たちは21年11月、業界に先駆けて次回受診確認メッセージ機能を追加して、お客様から広く支持された。まさに変化はチャンスです」
SaaSには、業界横断の共通業務向けであるホリゾンタル型と、特定業界の業務に特化したバーティカル型がある。カケハシの「Musubi」シリーズは、薬局業界特化のバーティカルSaaSだ。
これまで薬剤師は患者に服薬指導後、薬歴を手動で入力していた。電子薬歴システム「Musubi」は、薬剤師がタブレットで患者に服薬指導すると薬歴の下書きが生成され、業務効率が向上する。
「Musubi」は中小薬局を中心に導入されていたが、近年は大手チェーンでの採用が進み、契約店舗は全国薬局の10%にあたる6,000店を突破。直近1年の成約店舗数は前年から倍増し急成長を遂げている。
なぜ大手がカケハシを選んだのか。もうひとりの創業者、中川貴史はこう分析する。
「プロダクトとして優れているだけではダメ。ユーザーへの教育研修や365日即時対応のカスタマーサポートなど、プロダクト以外でも安心いただける体制をつくったことが評価されました。体制構築には時間がかかりますが、私たちのゴールは患者さんや薬剤師さんに付加価値を与えることであり、創業当初からカスタマーサクセスを意識して準備してきた。それが実を結んだと考えています」