ビジネス

2022.11.25

「似た者同士」タッグが目指す、薬局DX起点の「医療のリデザイン」 カケハシ中尾豊、中川貴史

カケハシ 中川貴史(左) 中尾 豊(右)


目指すは医療プラットフォーマー


タカとユタカ―。お互いにそう呼びあうふたりが似ていたのは名前だけではない。

中尾は身内に薬剤師がいる環境で育ち、武田薬品工業に就職。MR(医薬情報担当者)として活躍していたが、規制緩和の流れを見て「患者により付加価値を届けられる仕組みをつくりたい」と退職届を出した。業務の引き継ぎをしているときに出会ったのが、マッキンゼー・アンド・カンパニーにいた中川だった。中尾は出会いをこう振り返る。

「勉強会で『医療をリデザインしたい』と語っても、『いくら儲かる?』という反応ばかり。唯一、『面白いじゃん』と言ったのがタカでした。能力面はわからないけど、視座の高さは同じ。さっそく翌日、ランチに誘いました」

一方の中川は、学生時代から教育系や音楽ストリーミングサービスで会社を起こした起業家だった。しかし、当時はリーマンショック後で逆風が吹き、音楽のサブスクも普及前で理解されなかった。「起業はタイミング」という苦い教訓を得て、いったんマッキンゼーに入社。コンサルタントとして活躍していたが、スタートアップのエコシステムが徐々に形成されていく様子を見て、「いい頃合い」と勉強会に参加した。

中尾の話を聞いて一緒にやることを決めたのは、医療に変革が起きる時機だと確信したからなのか。そう問うと、中川は「そこはわからなかった」と笑った。

「ただ、失敗してもチャレンジする意義のあるテーマだと思いました。タイミングは重要ですが、結局、一歩踏み出すかどうかは社会課題を解決したいという思いの強さ次第でしょう」

日本の医療をリデザインする―。起業から6年たったいまもふたりが描くゴールは一致している。目指すは、バーティカルSaaSの枠を超え、薬局起点の医療プラットフォーマーになることだ。例えば、21年には在庫医薬品売買サービスを提供するPharmarketを買収し、薬品流通の領域に進出している。

領域を広げると、変革を拒むステークホルダーと衝突するおそれもある。しかし、中尾は「ディスラプター(破壊者)ではない」ときっぱり。

「感覚はCo-デザイン。一緒に設計するには、ステークホルダーをハッピーにすること、そして理念を語ることが大切」

一方、中川からは別の文脈から理念の重要性を説いた。「社員数は300人近くに増えました。組織をまとめるにはミッション、ビジョン、バリューが必須。私自身、この一年はそこに向き合うことに時間を費やしました」

中尾は外、中川は中という役割分担ができているようだが、どちらもビジョナリーなアプローチをするのは同じ。やはり似た者同士である。


中尾 豊◎医療従事者の家系で育ち、武田薬品工業でMRとして活躍後、2016年にカケハシ創業。

中川貴史◎東京大学法学部卒。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て2016年にカケハシ創業。

文=村上 敬 写真=ヤン・ブース スタイリング=堀口和貢 ヘア=KOTARO(センス オブ ヒューモア) メイク=SADA ITO

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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