ビジネス

2022.11.25

2040年の新しい医療インフラへ、二人三脚で乗り越えた経済合理性の壁 ファストドクター菊池亮、水野敬志

ファストドクター 水野敬志(左)、菊池 亮(右)


ファストドクターのサービスをおさらいしてみよう。一言で表現すれば、時間外救急のソリューションプラットフォームだ。

夜間や休日に患者からの救急相談をコールセンターで受け、重症度や緊急度を判断する「トリアージ」を行ったうえで、患者が置かれているシチュエーションも考慮し、適切な診療に誘導。119番や近隣の救急病院への案内、ファストドクターに登録している医師の往診やオンライン診療などを手配する。

また、診療をスポットで差配するだけではなく、診療後にかかりつけ医に情報を共有してバトンを渡したり、患者によってはかかりつけ医探しを手伝ったり、あるいはかかりつけ医が見つかるまで医師が医学的な支援をするといったフォローアップの機能も備える。

菊池は「トリアージからフォローアップまでをひとつのトランザクションとして一気通貫で提供しています。従来の救急相談センターのような行政サービスでは実現できなかった体験だと自負しています」と話す。従来型の救急相談では、緊急度が低いと判断された場合、医療機関を選択して通院するといったその後のプロセスについては患者自身が判断して行動しなければならない。

8代続く医師の家系出身の菊池は、もともと勤務医として救急医療に携わっていた。そこで見たのは、軽症者が本来必要のない救急車を使ったり、逆に重症者が速やかに大病院で診療を受けられなかったりする現実だった。

これを自分の手で変えたいという思いでファストドクターを起業した。救急搬送と通院の間を埋めるサービスとして、夜間・休日の往診やオンライン診療という選択肢を用意。そのうえで、トリアージとフォローアップという前後の機能を網羅的に提供することにより、患者の受診行動の変容を丁寧に支援することができると考えた。

自社で行ったアンケート調査では、登録している医師のうち9割以上がファストドクターのこうした目的意識に共感しているという。20年8月に同社がPCR検査を提供することを決めた際のエピソードは象徴的だ。

「当時、新型コロナは未知のウイルスだったので、検査は感染症指定医療機関以外でやるべきではないという風潮があって、在宅で発熱していた患者さんは検査まで1週間ぐらい待たされていました。在宅で検体を取れればそれが2日まで短縮できる。

我々のミッションとしてやるべきだと判断しましたが、果たして協力してくれる先生がいるのか、実は自分たちでも疑問だったんです。それがふたを開けてみたら、8割ぐらいの先生が手を挙げてくれました。強いチームになってきていますよ」

やがて地方自治体からの要請を受け、保健所のコロナ対応業務をバックアップするという機能も担い始める。保健所のリソース拡充という観点だけでなく、往診・オンライン診療機能により在宅治療の支援体制が厚くなることも評価された。こうして医療分野のインフラとして浸透し始めるにつれ、業績も大きく伸びた。
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文=本多和幸 写真=ヤン・ブース スタイリング=堀口和貢 ヘア=KOTARO(センス オブ ヒューモア) メイク=SADA ITO (センス オブ ヒューモア)

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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