スタンフォードで見た起業家精神
──医学部には起業家精神をもっている人が多いのですか?
医学部には病院勤務の臨床医以外にも、研究所勤務の医学研究者が多数在籍しています。コミュニケーションを取りあうことで、基礎研究・橋渡し研究・臨床研究が上手く回っています。お互いに得意領域を尊重しあっていて、臨床医と医学研究者がチームを組み、イノベーションが生まれていますね。
特に基礎医学研究を支えているのは世界中から来ている優秀なポスドク(博士号取得済みの研究員)の人たちです。彼らは「なんとかしてアメリカに残ろう」という気概に満ちています。アメリカのバイオテック領域の起業家精神は彼らが支えているといっても過言ではないと感じました。
──スタンフォードの何が彼らを惹きつけているんでしょう?
スタンフォードブランドは大きいでしょう。それから、キャンパスの周辺のビッグテック、スタートアップで働く切符が手に入りやすいというのもありますね。日本と異なり、産学官の人材流動性が高いことから、ポスドク後のキャリア選択肢が幅広いことも魅力です。
アカデミアに残って教授を目指す人もいれば、企業に就職する人もいれば、FDA(アメリカ食品医薬品局)等に入る人もいます。日本では博士課程に進んでも待遇面で恵まれないいわゆる「ポスドク問題」がありますが、スタンフォードで博士号を取得したりポスドクをしたりすることは個人のキャリアアップに繋がるのみならず、待遇面でも期待できます。
文化や考え方の違いもあります。失敗を許容する文化です。例えば、彼らはスタートアップを立ち上げ、仮に失敗したとしても、「失敗した経験が就職活動で有利に働く」と考えています。あとは、医療関連の場合、起業を支援する法制度やインフラの問題もありますね。日本で魅力的な環境が整えば、彼らは「日本語」という言語の壁は平気で超えてくると思います。
──今後のビジョンは?
日本にいたときに付き合っていた人は99%医師や医療関係者でした。スタンフォードに来てからは、さまざまなバックグラウンドの人に出会い、交流を深めています。滞在は来年の3月までなので、帰国後は医師として働きつつ、医療領域のイノベーションに携わりたいです。
取材後記
スタンフォードの起業家精神の中心は、世界中から集まってくる優秀な人材です。そしてそれを支えるプログラムがあり、日常的な学部横断的な交流があちこちにあります。串岡さんもおっしゃるように「日本の大学ではほとんど見られない光景」です。
日本でも現在、大学発スタートアップを増やそうという議論があります。大学内で学部の垣根を超えた起業支援プログラムを作っていくことが求められていきそうです。
串岡純一(くしおか・じゅんいち)◎広島県出身。大阪大学医学部卒業(整形外科専門医・医学博士)。大阪大学にて整形外科医として脊椎外科手術・再生医療等を研究。2021年4月よりスタンフォード大学医学部にポスドク(Postdoctoral Scholar)として在籍。