人物の感情をこまやかに描く
ガルド氏が語る通り、スペイン版のエンディングはよりポジティブな印象を与えています。オリジナル版をもとに、女性教師と女児、実の母親の3人の未来について想像力がかき立てられる着地となっています。そこには「情熱の国」と言われるスペインらしさが溢れています。
リメイクドラマは、このように現地の文化や嗜好などに合わせたローカライズ化を図ることが多く、ロケーション選びについても同様です。なので拘りは撮影場所にも表れています。
「スペインには観光客に人気のビーチが数多くありますが、この作品では、ありのままの自然が残されたスペイン南部のアンダルシア地方にある海岸を選びました。母なる大地をイメージでき、作品にリアリティを持たせる最適な場所だと思いました」
「Heridas」(c)Jau-Fornés
加えて「アンダルシア地方は、日本の皆さんにも是非訪れて欲しい場所の1つです」と話すガルド氏。作品をきっかけに、興味が引きつけられることは十分にあり得ます。
そもそも、ガルド氏にとってドラマ「Mother」は日本と共通するものをあらためて認識した作品でもありました。「日本の文化とスペインの文化は全くと言っていいほど異なります。でも、私たちは同じような深い感情を持っている。実のところ、日本の『Mother』を見るまで想像していなかったことでした」と正直に想いを伝えた後、さらに次のように付け加えました。
「物語を語るうえで、感情はとても大切なものです。ドラマ『Mother』は、登場人物それぞれの感情がこまやかに描かれています。感情を鍵にしているとも言える。それは素晴らしいことです。
キャラクターをベースにした脚本づくりは日本人が得意とするところです。登場人物のキャラクター性を活かしたこの作品から多くを学ぶことができました。キャラクターはストーリーであり、ストーリーがキャラクターをつくる。これに気づかされ、だからこそ、私たちは登場人物のどんな言動もどんな心情も理解することができるのかもしれません」
「Heridas」(c)Jau-Fornés
ガルド氏のこの言葉は、なぜドラマ「Mother」が、時代も国境も超えるコンテンツ力を持っているのか、まさにその答えを言い表すものでした。
スペイン版は世界に6億人いると言われるスペイン語圏の人々にも広がる可能性も持ち合わせています。放送や配信地域がさらに拡大していく展開も十分に期待できます。登場人物の感情をこまやかに描いた物語の魅力がそこに存在するからです。
連載:グローバル視点で覗きたいエンタメビジネスの今
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