日本のドラマ「Mother」のスペイン版が大ヒット。ショーランナーが語ったその理由

スペイン版では「希望」を強調



ガルド氏は、スペイン版「Mother」を企画し、脚本も自ら手掛け、ショーランナー(製作総指揮)と言われるドラマづくりにおける重要なポジションにある1人です。彼は、これまで25年にわたってスペインで数々のドラマ作品を手掛けてきました。

ドラマ「Mother」に出会ったきっかけは、トルコ版「Mother」が世界的にヒットし、スペインのドラマ界でも話題になったことが大きかったそうです。はじめてオリジナルの日本版を視聴した時のことをガルド氏が興奮気味に語ります。

「勇敢さに溢れるストーリーでした。子どもの母親になる主人公の女性だけでなく、子どもを見放した実の母親も気になる存在でした。登場人物の女性たちの成長物語が鮮明に描かれているのが印象的でした。逃亡劇でさえも、人として成長していくために必要なことだったと受け止めました」

ガルド氏は主人公の女性教師の心情をさらに掘り下げていきます。

「彼女は岐路に立たされた女性です。彼女はそもそも母親になるつもりはなく、本能のまま誘拐してしまった。それは女児を救っている行為であると同時に、自分自身を救うことにも繋がっていきます。自分自身を変えるための逃亡だったのではないかと思うのです」

この指摘通り、互いに救い合う登場人物の女性たちは「傷を負っている」という意味では共通しています。スべイン版ではタイトルにまでこのことが反映され、オリジナルの「Mother=母親」から大きく変更してスペイン版は「Heridas=傷(意訳:傷ついた女性たち)」というタイトルになっています。


「Heridas」

さらにスペインの視聴者に合わせて、全13話のなかで、ガルド氏は「希望のメッセージを送りたかった」と話し、その理由を次のように続けます。

「物語のなかで描かれた、ポリ袋に入れられた女児がゴミ収集所で置き去りになるシーンは誰にとってもショッキングなものでした。こうした残酷さを持ち合わせながら、良心に沿う物語を基本とするなかで、忘れたくなかったのが『希望』でした。スペイン版では幸せな物語としてエンディングに向かいたいと思いました。いまスペインで放送することの意味を考えて、私たちに希望を与える部分を強めたのです」
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文=長谷川朋子

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