米国の石炭発電雇用、再エネ雇用に「置き換え可能」との研究結果

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再生可能エネルギーを活用したよりクリーンで持続可能な世界への移行が進む中、既に脱工業化によって斜陽産業となっている分野の労働者に関する懸念が生じている。米ミシガン大学が最近行った研究では、米国ではこうした雇用を風力や太陽光関連の仕事に置き換えられることが示された。

研究チームによると、全米250カ所の石炭火力発電所では2019年の時点でもまだ約8万人が雇用されており、こうした人々が再生可能エネルギー関連の仕事に移行できることの意義は大きい。

気候変動の深刻さを受け、クリーンエネルギーへの移行には多くの関心が寄せられてきたが、石炭などのいわゆる「汚い」産業分野で働く人の行く末に対する関心は比較的低かった。

研究チームは、閉鎖される石炭火力発電所での雇用を80キロ以内のクリーンエネルギー施設に移行させることが、多くの地域で可能であると結論。それによりエネルギー移行のコストは推定約830億ドル(約12兆円)増加するが、米国の対電力投資が年間700億ドル(約10兆3000億円)に上ることや、脱化石燃料化にかかる総費用が2030年までに最大9000億ドル(約130兆円)と推定されていることと比べると、この追加コストは小さなものだと指摘している。

気候変動の緩和には炭素排出量の大幅削減が必要であることから、比較的安価に排出量を減らせる発電分野での取り組みが優先されることは避けられない。今後10年ほどで、米国の石炭火力発電所の大半が閉鎖され、低炭素の発電手段に置き換えられる可能性は高い。太陽光や風力などの技術は近年大きく進歩しているが、石炭関係の雇用を再生可能エネルギー関連の雇用で置き換えることが可能なのかどうかは、まだ不透明な部分がある。

ミシガン大学の研究では、石炭火力発電所が全て2030年までに閉鎖され、その発電量をすべて再生可能エネルギーでまかなうと同時に、発電所の元従業員が再生可能エネルギー関連の仕事に移ることを想定。新たな雇用は石炭火力発電所から特定の距離の範囲内につくられなければならないとし、労働者が転居不要な距離である80キロ圏内に加え、引っ越しが必要となる800キロ圏内と1600キロ圏内の3パターンを想定して分析を行った。

800キロ圏内と1600キロ圏内では石炭関連の雇用を再生可能エネルギー関連の雇用で置き換えることが可能とされたのは意外ではないかもしれないが、より重要な結果として、80キロ圏内でも雇用の置き換えは可能だということが示された。こうした仕事の大半は運営・保守に関わるもので、建設系の仕事も比較的小さいながらも一定の役割を担うとされた。

石炭火力発電が全面的に再生可能エネルギーに置き換えられることはないかもしれないが、この研究結果は、脱工業化で起きたものよりも円滑な移行が可能だという希望を生むものだ。それが本当に実現可能かどうかは、政策決定者にかかっている。

forbes.com 原文

編集=遠藤宗生

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