皮肉なことにエネルギーを人質にしたプーチンはバイデンに助けられている

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ロシア軍に包囲されたウクライナ東部でのウクライナ軍の反攻で、驚異的な敗北としか言いようのない状況に直面したロシアのプーチン大統領は、長年にわたって彼の好戦性をよく研究してきた多くの人々が「こういう動きに出るのでは」と予測していたことを実行に移した。

プーチンは成果を上げようと賭けに出た。具体的には、「特別軍事作戦」を支援するために30万人の予備兵の召集を命じた。プーチンにとって残念なことに、特別軍事作戦のこれまでの主な成果はというと、プーチンの権力を弱め、北大西洋条約機構(NATO)の結束力と規模、強度を高め、そしてロシアの侵略に反対するウクライナを支持する西側諸国の団結につながった。

ここ数週間、西側の政治評論家たちはプーチンの目標と戦略の読解で珍しく一致した見解を示している。プーチンは、欧州がロシアの石油と天然ガスに依存していることで、ウクライナを支援し続ける決意がこの冬に揺らぐことを期待している、というのがほぼ全員の一致した意見だ。

明らかな戦略を強調し、特に経済的・社会的圧力を高めるために、プーチンはさらにパイプライン「ノルドストリーム1」を通じた欧州へのエネルギー輸出を停止すると発表した。

仮にそれがプーチンの戦略であると仮定すると(かなり確実だと思われる)、プーチンが戦略にエネルギーを持ち出してきた最大の意図は、兵士の追加で戦争の方向性を実際に変えることができるという確信よりも、エネルギーの禁輸によって欧州の結束力とウクライナへの支援をこの冬の間継続するという決意をますます圧迫することによって、欧米の協力とウクライナ支援が弱まるという計算されたリスクだろう。

皮肉なことに、プーチンはエネルギーを人質にした圧力という点でバイデン米大統領という意外な人物に助けられている。バイデンのエネルギー政策は、国内での天然ガスや石油の開発と輸出に反対しており、欧州はさらなるロシアの供給削減を補うという点で米国からの援助がほとんど期待できないことを知っている。

すでに欧州経済は戦争で経済的、エネルギー的に打撃を受けており、しかも本格的な冬はまだ到来しておらず闘いはこれからだ。エネルギー価格が2月から800%近く上昇しているところもあり、すでに欧州の工場ではエネルギーコスト削減のために操業停止や生産制限を行っているところもある。

一方、ウクライナでの戦争は続いている。つい最近はウクライナのザポリージャ原発にロシアのロケット弾が命中しそうになり、ロシアの大砲がウクライナの民間インフラを狙い続け、ロシアは現在支配しているウクライナの一部を合法的に編入する計画を発表した。
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翻訳=溝口慈子

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